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鳥の獄



◆◆◆◆




 竹でできた四角い鳥籠が、縁側に無数に並んでいる。

 滑らかな緑色の小さな小鳥が、鳥籠の中で囀っている。

 目の周りが白い愛らしいその鳥の名は、メジロという。それから、ウグイスに、ヒヨドリ。

 ある日、朱鷺子さんが小鳥を飼いたいと言った。

 幸次郎さんがとりもちを縁側で練って作って、庭木に塗って、小鳥を捕まえた。


「面白いぐらいに、小鳥がとれる。鳥というのは頭が悪いのだね」


 何羽も捕まえた鳥を鳥籠に入れて、幸次郎さんは笑っていた。

 朱鷺子さんは小鳥を近くで見ることができて、すぐに満足してしまったらしい。

 興味を持ったのは一瞬のことで、一日経ったら鳥籠の中の小鳥たちに見向きもしなくなり、鳥を捕まえることは幸次郎さんの趣味になったようだった。

 

 幸次郎さんは小鳥を捕まえることが好きらしく、捕まえたらそれで満足してしまうようだ。

 世話をしなければ、鳥籠の小鳥は弱ってしまう。

 弱りきってしまう前に逃してあげれば良いのに、幸次郎さんはそれもしなかった。

 だから私は毎日時間をつくっては、小鳥たちに餌や水をあげて、鳥籠の掃除をしていた。


 小鳥たちは愛らしく、けれど誰にも見向きもされないのに鳥籠に入れられているのが、不憫でならなかった。

 いっそ全て逃してあげたいと思ったけれど、そんなことをしたらどんな仕置きをされるか分からない。

 ただでさえ小鳥の世話をする私を、お母様は「幸次郎さんに媚を売っているのね」と言って、快く思っていないようだった。


 もう入れる鳥籠もないのに、幸次郎さんはお休みの日になると飽きもせずにとりもちを作って、庭木に塗っていた。

 そうして――百舌鳥が捕らえられた。

 百舌鳥は、小さな体をした愛らしい小鳥だ。

 橙色の体に、羽と目は黒い。夕焼けや宵闇を思わせる色合いのその小鳥を捕まえて、幸次郎さんは鳥籠に入れた。

 私は庭の掃除をしていたので、それを見ていた。

 幸次郎さんは私に微笑みながら「蜜葉、百舌鳥を捕まえたよ」と言って、自慢げに見せてくれた。


 そこにお母様と朱鷺子さんがやってきた。

 お母様は鳥籠の中を覗き込むと、悍ましいものを見たように顔をしかめた。


「百舌鳥なんて、不吉な鳥……! こんな鳥、殺してしまって!」


「確かに、そうだね。それでは、台所から包丁でも持ってこようか。それとも、布切りバサミの方が良いかな」


 まさかと思い、私は目を見開いた。

 罠を仕掛けて小鳥を捕まえたのは幸次郎さんなのに、逃しもせずに、殺すなんて。

 お母様は私に布切りバサミを持ってくるように命じたけれど、私は庭掃き用の竹箒を手にしたまま動くことができなかった。

 幸次郎さんが私の様子を見かねたのか「自分でとりにいくから良いよ」と言って、立ち上がった。

 その瞳はどことなく、好奇心の輝きに満ちている気がした。

 百舌鳥を殺せることが嬉しい。

 私にはそんな表情に見えた。

 とても、耐えられなかった。

 鳥籠の中の小鳥たちは、まるで自分のように思えた。

 先ほどまで自由に空を飛んでいたのに、人間の都合で、理不尽に命を奪われてしまうなんて。

 それも食べるため、なんかじゃない。

 なんの意味もない行為だ。


「……蜜葉!」


 幸次郎さんの姿が見えなくなった瞬間、私は走り出していた。

 竹箒を放り出して、鳥籠の元まで駆ける。

 お母様の叱責が聞こえる。

 きっと、ひどく叱られるだろう。

 でも、考えるよりも先に体が動いていた。

 私は百舌鳥の鳥籠を両腕に抱いて、庭の真ん中まで逃げた。

 鳥籠を開くと、小鳥は聡明そうな黒い瞳をぱちりと一度またたいて、それから空へと飛び立っていった。


「蜜葉、なんていうことを! それは幸次郎さんが捕まえた鳥なのに、なんて勝手なことをするの!」


 私を追いかけて庭に降りてきたお母様が、私の頬をはった。

 力一杯頬を叩かれて、私は庭に転がった。

 砂利に体が擦れる。

 そのまま、お母様に髪を掴まれて、私は母屋の奥へと引きずられるようにして連れて行かれた。


 そして――火箸で、背中を焼かれた。

 


◆◆◆◆

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