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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十四話 白から黒へ道違い
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第二十四話 1

 晃と千智が廃病院に足を踏み入れた同時刻。

先客である二人の男子小学生は、さらに奥へと迷い込んでいた。


「な、なぁミッチー……ここ変じゃね?」


 一人の小学生が、廃病院全体に漂う違和感に気づき始めた。

探究といたずらの心に隠していたた未知への恐怖が滲み出し、声色に表れる。


「な……なんだよ、ヨシりん!いまさらびびってんじゃねーよ!」


 ミッチーと呼ばれた気の強い小学生は、怯えた声を出す相方・ヨシりんを一喝した。


「だ、だって、ここって十五年ほっとかれたって言ってたじゃん……でも、なんか、ちょっと、掃除されてる……」


「知らねーよ!ホームレスかなんかがいたんだろ!」


 ヨシりんの確かな指摘を遮り、怒声で押し流す。

しかし、そんなミッチーの態度と大声は心の中で膨れ上がる不安と恐怖を誤魔化すための手段に過ぎない。


「いいからそのへん探せよ!医者の道具とかヘンなくすりとか見つけて学校で――」


「ミ……ミッチー……!ヤバ……!!よろ、鎧が……!」


 〝危険があるかもしれない〟から〝明確な危険がそこにいる〟へ。

 視線を向けた先にいたものによって、ヨシりんの恐怖がさらに高まる。


「ミッチー……マジ……やばいって……!」


「はぁ?おまえビビりすぎ!鎧ってなんだよ!病院にそんなもんあるわけ――


 ヨシりんは声を出すのも精一杯が緊張状態にあっても、なんとか相方に危機を伝えようとした。

しかし自分の探索に夢中なミッチーはヨシりんの方を向きもせず、声を震わせる彼の臆病さを罵倒する。

 

「なんか動いてこっち来てる」「えっ」


 ミッチーはようやくヨシりんの方を向く。

視線の先を確認するとそこには確かに彼の言う通り、西洋甲冑らしきものがいた。


 遠目から見れば格好のいい甲冑のようだったかもしれない。

しかし間近に迫り明らかになったそれの造形は、本能的な嫌悪感と生命危機を感じさせる“怪人”のものだった。


「――――」


 言語らしき何かを呟く怪人――鉄の灰色(スチールグレイ)の晶獣が二人の方を向き、明確な害意を露わにする。





「「うっ、うわああぁぁぁああああーーーっ!!??」」


「おい千智!今の声って!?」 「あ、あのふたりです……!」


 ミッチーとヨシりんの絶叫が、晃と千智の耳に届く。

その距離の近さから自分達のいる一階で、なんらかの生命危機に瀕している事が想像できた。

  

――まさか晶獣でも出たのか!?冗談じゃねえぞ!こっちに千智もいるってのに!!


 晃はアーマライザーと剣晶一式を持参していたものの、この場で戦闘が起きる事は想定していなかった。

頭の中にあった驕りと油断を一瞬で吹き飛ばし、慌てて思考を巡らせる。


――千智はここで待たせるか?いやダメだ!相手が何匹どこにいるかわからねえ!!


「とにかく様子見んぞ!!俺から離れんなよ!!」


 千智を独りにしてはいけないと判断した晃は、その腕を強く掴んで声の聞こえた方へと駆け出す。


「いたっ!!ちょっと!やめてください!なんなんですかおにいさ――


 突然腕を掴まれた千智は、痛みに顔を歪める。

状況を理解できないまま、抗議の言葉と共に晃を見上げた。


――なに……?さっきまでのおにいさんとはぜんぜんちがう……


「あっ……は、はい……」


 そこにあったのは常識外の戦いを何度も乗り越え、これからまた戦いに挑まんとする男の表情。

そんな顔を見ていると不思議な気持ちになり、なすがままに引っ張られる事しか出来なくなった。


 


 さらに同時刻。

遅れて廃病院に入った麗華、蘭、中西の三人は晃達とは別のルートを使い悲鳴の聞こえた地点へと向かっていた。


「事情は読めんが、子供の様子を確かめねば!芽吹への追求はその後行う!」


「中Tってそういうとこ、まともだよね〜。普段のイヤミで全部帳消しだけど」

 

 狭い通路を一列になって歩く三人。

先頭に立つ中西は、不気味な雰囲気に怯えながらも大人として真っ当な意見を口にした。

早足で前に進む中西の真後ろにつく蘭は、晶獣にまつわる裏を知り肝も据わっているので軽口を飛ばす余裕がある。


「静かにして。何か嫌な予感がする……」


 麗華は二人から少し距離を離し、警戒の為五感を研ぎ澄ませる。

 極力抑えているようにしているが、それでも何処かから聞こえてくる物音を敏感に察知していた。


――何処から?何を目的に……?


 一般的な晶獣は気配を殺し機会を待つような事はしない。つまり今近くにいるのは確かな知性を持った何かであるという事。

そんな相手の目的と攻撃手段に思考を巡らせ、歩く足を止めた瞬間。


「……ッ!!私から離れて!!」


 〝それ〟の殺意が明確になり、麗華の直感が生命危機を伝える。

天井の破壊を伴いながら麗華のいる地点に降ってきた〝それ〟を、咄嗟のバックステップで回避した。


「どぇぇっ!?姉ちゃん!!??」


「なっ、なっ、なっ、なんだぁあああっ!!??」


 二人は麗華の警告でようやく危機に気づき、慌てふためき身を離す。

戦闘者ではない蘭と中西には〝それ〟の気配を全く察知できなかった。

  

「コ……カ……キキ……」


 落下し、地に伏せた状態から立ち上がった〝それ〟――パラライズトーカーは、呻きとも笑いともとれない不気味な声を漏らす。


「まさか……ヴェノムジェスター!?」

 

 トーカーの纏っているのは、道化を模した強化装甲服。

見覚えのある外装形状から、麗華はそれを一瞬ジェスターと見間違えた。


 外装の色は使用する剣晶を反映したサンドイエロー。

装着者の体型を反映した、背が高くスマートなシルエット。

腰からはガンドレッサーだけを下げ、ジェスターの持っていた増設バレルは見られない。

腕にはグローブのような機器を装着し、先端が折れてただの鋭利な鉄棒と化した自撮り棒を握る。


「キキ……ヒヒヒ………ヒヒヒヒヒヒ……!」


 ジェスターのものより更に歪んだ加工を施された声。

まるで正気を感じさせない、唸り声とも笑い声とも取れない声。

そしてガンドレッサーだけは腰に下げているのに一切発砲せず、積極的に接近戦を仕掛けてくるバトルスタイル。


「いや、違う……新手ね!」


 両目でしっかりそれを知覚し、それが麗華の知るヴェノムジェスターと全てが繋がらない別物である事を把握した。


――狙いはおそらく私……ならば!


 トーカーは麗華と蘭達を分断する位置に立つが、蘭と中西には一切関心を見せる様子がない。

麗華にのみ向けられる視線と殺意から、その目的はすぐに察せる。


「蘭!先生を連れて先に行って!!晃くんと合流できるはずよ!!」


「わ、わかった!姉ちゃんも気をつけてね!!」


 トーカーの身体を挟み、姉妹の視線と声が通じ合う。

麗華の判断を蘭はしっかり受け止め、迷いなく中西の腕を掴み前方へと駆け出した。


「まっまっ、待て待て待て!!なぁにをやっとるんだ!?というかなんだそいつは!変質者か!?危険では――


「大丈夫!姉ちゃん強いから!!」


 中西が連発する至極当然な疑問を、蘭は一言で切り捨てる。

どの問いの答えにもなっていないが、姉への強い信頼から生じる説得力に溢れていた。

 


「……速攻で片付ける!セットア――


 蘭と中西が離れたのを確認し、アーマライザーを起動しようとした瞬間。

じっと麗華を見つめていたトーカーが動き始めた。


「ヒィィァァァァァァッ!!!」


 耳障りな奇声を発し、壊れた自撮り棒の鋭い先端で麗華の顔面を突き刺しにかかる。

麗華にとって回避行動を取ることは容易だったが、装着プロセスを妨害されアーマライザーを起動する事が出来ない。


「シィッ!!シィッ!!シィィィィィィッ!!!」


 突きの後は蹴り。蹴りに続いて自撮り棒の乱打。

矢継ぎ早に繰り返される攻撃が、麗華の行動を制限し続ける。


「なっ!?くそっ!!」


 至近距離において、トーカーによる装着妨害を防ぐ事は困難。

麗華が距離を離そうとするとトーカーが蛇のようにしつこく迫って距離を詰め、本来の目的地からどんどん遠ざけられる。

 

 パラライズトーカーは以前戦ったヴェノムジェスターと同じく、神聖騎士団に従い人類に牙を向く人間。

単純な戦闘力では劣るものの一般的な晶獣では持ち得ない知性を有し、自分達の行動を分析し対策を行う難敵。

しかしトーカーには戦闘スタイルの他に、ジェスターと決定的に異なる点があった。


「ハィィィィャァァァァァァッ!!!」


 ノイズで歪み切った奇声を繰り返すトーカーには、ジェスターが持っていた人間性や正気が存在しない。


「こいつは……一体……!?」


麗華が強いられているのは、本来想定しているはずもない〝決定的に壊れている人間〟との戦い。

思い通りに事を運べない戦況と、剥き出しの狂気によって麗華の額に冷や汗が流れる。

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