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鉄拳の騎士  作者: sui
第二十一話 不穏の零れ種
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第二十一話 2

「フゥーッ……アオイさま、やっと落ち着いたぁ……」


「出力調整が碌にできないって話は聞いていたからね。ここまで極端だとは思わなかったけど」


 同時刻、陶子達が隠れている舞台裏。

晃達の激闘の裏側で、晶獣が仕向けた無差別攻撃を捌き続けたアオイは力を使い果たし、すやすやと寝息を立てながら眠っていた。


「暴れとる時は悪魔みたいやったのに、こうしてるとかわいいもんやなぁ。人間やったら中学生くらい?」


 血の奴隷兵達を殴り潰したアオイの両手は真っ赤に染まっていたが、恍はその悍ましい光景を気にする様子もない。


「……そうね、それくらいかも」


 陶子は目を背けて胸の内を隠し、当たり障りのない返事を返すのみ。

その様子は恍ではなく、アオイを見ないようにしているようであった。


「それより、〝正規部隊〟が到着する時間よ。急いで」


「はいはーい!よいしょっ……アオイ様、軽っ!!」


 時間を確認した陶子の言葉に合わせて、恍は軽々とアオイを背負い駆け出した。

誰にも気取られずこの場から去り、最初からいなかった者になる。

それがこの二人に与えられた、本日最後の仕事だった。


「……じゃあね、(めぐ)ちゃん」


 二人の偽メイドが人知れず戦場を去る直前。

陶子は満身創痍の晃達の方を振り返り、森川さんを見つめて独り言を漏らす。

まるで古い友人にかけるような、親愛を感じさせる声だった。

 

「また邪魔をするようなら……いつか、いつか羽黒と一緒に殺してやるから」


 しかし続く言葉は裏返り、深い親愛は憎悪へと変わる。




 帝国ダイヤモンドプリンスホテルでの戦いから数日が経つ。

晃と森川さんは治療の後すぐに日常に復帰できたものの、ブライニクルバンカーバスターによる反動ダメージが抜けきっていない麗華だけは入院を余儀なくされた。


「麗華くゥン?具合如何かなァ!?優しいワタシがお供を引き連れお見舞いにやってきたヨー!!」


 場所は、戸成市の戦いの後晃が入院させられた特防省と繋がりのある病院。

広い個室のベッドで横たわっていた麗華の元に、篝火が見舞いに現れた。


「しゅ、主任!?」


 この女がわざわざ見舞いに来る事を想像していなかった麗華は、退屈そうな表情を一変させて飛び起きる。


「よぉ、思ったよりは元気そうだな」


「当たり・フロントよ。このワタクシの後輩ですもの。タフでなければ務まらないわ」


「晃くんと……先輩も来ていたのね。良かった……」


 篝火の急襲に身構えるが、彼女が連れてきた晃と芙蓉の顔を見てひとまず麗華の表情がほぐれる。


「動けなくなったというだけで、大きな怪我をした訳では無いから。もう少しで退院出来ると思うわ」


「フフン、なら病院食飽きてきた頃だろゥ?お腹ペコペコであろう麗華くンの為にサプライズを用意してンだゼ!」


 壁にかけてある時計で時間を確認した篝火が指を鳴らしたタイミングでまた扉が開き、晃と芙蓉に続く新たな客が姿を現した。


「まいどー!モグモグフードデリバリーでーっす!!ご注文のオードブル詰め合わせ、お持ちしましたーっ!!」


 入ってきたのは溌剌とした元気な声を持つ、高い背丈と小麦色に日焼けした肌を持つ女。

長めのショートボブにキャップを被り、ロードバイク用ライディングスーツと薄い上着を一枚来て大型のデリバリーバッグを背負う姿は一目でわかる〝配達バイトの女〟だった。


「え、ちょっ!?主任!?いくらなんでも病院にモグフーはダメじゃないの!!??」


 フードデリバリーの届け先を病室に設定する篝火の非常識な行いに、すっかり根の小心さを隠さなくなった芙蓉が慌てふためく。


「だってワタシ偉いもーん!特権特権!!」


 JRICC主任という権力を活かせる場である事をいいことに、悪びれる様子もない篝火。


「……良い子が真似しちゃダメなやつだなこれ」


 一方、半開きになったドアの外から看護師達の殺意を感じ取った晃は密かに顔を青くした。


「まぁ……お腹が満たせるなら、それでいいけど」


「麗華!倫理のレベルをこの人に合わせたら終わりよ!?」


 渋い顔をしていた麗華だが卓上に並べられた大盛りのオードブルに釣られ、厳しい事を言えなくなってしまう。


「それじゃ、ご利用ありがとうごさいま……ん?キミ、〝あきかぜ〟のボウヤやんか!」


「あぁ、なんだ瑪瑙(めのう)サンかよ。こんなとこまで配達来てんのな」


 納品を済ませ退出しようとした配達員は、晃の存在に気がついた瞬間親しげな様子を見せる。

晃からの態度にも棘が無く、二人が良好な関係を持っている事は誰が見ても明らかだった。


「……ねぇ、晃くん。その人知り合い?」


 病院。晃に絡む年上の女性。満更でも無い様子の晃。

ロケーションと要素が一致しているだけなのに、晃の入院時に陶子がちょっかいをかけていた様子を思い出してしまう。

理由のわからない不愉快さを持った思い出は、麗華の機嫌を再び悪化させていく。


「おう。うちの店、最近弁当やってんだけどよ。販売だの配達だのにモグフーが噛んでてよ」


 例によって女の機微を察する事が出来ない晃は麗華の不機嫌を見逃して話を続ける。

瑪瑙と呼ばれた女との距離はかなり近いが、それに対して拒絶する様子も無い。


「んで!ウチあのへんのエリアでしょっちゅう仕事しとるからあきかぜにもよう来とる、ってワケやね!ウチ瑪瑙(めのう)(ほのか)って言います!よろしゅうね!」


「っておい!触んな!」


 恍は麗華の方を見ながら晃と肩を組み、自己紹介しながら健全な仲である事をアピールする。

ここまで近づかれると流石に晃も嫌がる素振りを見せ始めるが、その言葉遣いに本気の拒絶は無い。

 

「ふぅーん。ふぅーーーーん……」


 何か面白くない。

麗華はそんな気持ちを隠す事ができず、露骨に拗ねた様子を見せた。


「ちょ、おいサル!お仕事の邪魔になるからその、あんまり……か、絡むのやめときなさい!」


 麗華がヘソを曲げると、頭のネジが外れて面倒な事になる。

そうなれば同じ場にいるのがバカの晃とイカレの篝火である以上、また自分だけが取り残されて余計な苦労をする。

瞬時にそれを察した芙蓉は恍から晃を引き剥がし、麗華のベッドの横へと突き飛ばした。


「この浮かれポンチ」


「あ!?なんだよ!そりゃお前だろ、入院してるくせにモリモリ食いやがって!」


 嫌味と鋭い視線で不機嫌をアピールする麗華だったが、口一杯に頬張っているオードブルのせいで鈍感者の晃には想いが伝わらない。


「あっ、せやね。ウチ次の仕事いかなアカン!んじゃ、ご利用ありがとうございました!」


 腕時計を確認した恍は慌てて篝火に領収書を手渡し、鞄を片付けて病室を後にする。


「またお婆さんのお店で会ったらよろしゅうな、ボウヤ❤︎」


「そのボウヤって言うのやめろ!!」


 多少の馴れ馴れしさはあるが人当たりが良く、終始笑顔を絶やさない魅力的な女性の姿。

去り際に晃をからかう、年上の女性としての仕草。

満更でも無い様子で見送る晃。


――もう一回女の子にしてやった方がいいかしら、こいつ……!


 恍という女に、何故か陶子が被って見える。

麗華は恍と陶子の間にある関係を知らないが、何から何まで陶子を思い出させるロケーションに嫌悪感を覚え、顔を一層顰めた。

 


「……晃くン、扉をちゃンと閉めて」


 部外者である恍がいなくなった瞬間、篝火の声色が変わる。

ふざけた女からJRICC主任研究者へスイッチが切り替わった証であり、それを聞いた一同の緩んだ空気が正される。


「防音は問題ないンだが、一応表向きは公共施設だから万全を期したい。パイセンは窓閉めて」


「お、おう……」「わかった……」


 晃と芙蓉は篝火に従い、それぞれ半開きの扉と窓を閉める。

二人の表情は少し暗く、これから始まるであろう話があまり良いものでない事を麗華に予感させた。


「さて、ちょっと遅れたがまずはキミタチお疲れ様。コチラとしても初体験の嵐でだいぶキモが冷えたが、おかげで新たなデータもいっぱい集まったヨ」


「あの後……私が倒れた後、どうなったんですか……?」


 晶獣撃破後すぐに気を失ってしまった麗華は、その後に起きた事をまだ何も聞かされていない。

麗華の問いに対して、芙蓉はただ歯噛みして目を逸らすしか出来ない。


「今回は、その辺の後処理について説明しにきたのサ」


 篝火は喋りながら病室備え付けのテレビの電源を入れる。

何度かチャンネルを回して映ったニュース番組には、先日戦場になったホテルが変わり果てた姿になって報道されていた。


『先日、帝国ダイヤモンドプリンスホテルで発生した火災事故ですが、警察の調査によって新たに――』

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