第十四話 EX
「クキィィィィ!!なんなんですか、あのキモいおっさん!!ようやく私の家で羽黒さんとイチャイチャ出来ると思ったのに!!」
一呼吸置いて冷静になった後に、不審な中年に友人二人を連れて行かれた事実が腹立たしくなった亜由美がヒステリックに地団駄を踏む。
「完全に趣旨忘れてんじゃネーヨ!!……それにしゃーねーじゃんかヨ、相手オマワリなんだから……」
「「はぁ……」」
文句を言いたくても、晃達の手助けをしたくても。
自分達は戦えない、自分たちじゃ警察には口出しできない。
どんどん離れていく二人との距離に、一般人達は溜め息をつく事しかできない。
「…………ボクは、イヤだな。このまま置いてかれるのは、イヤだ」
少しの沈黙の後、意を決して声を上げたのは賢治だった。
「ワッツ!?賢治オメェーどうした!?いつものオメェーらしくねえジャン!?」
比較的冷静で、臆病だった賢治の変化に、同じく臆病者の宏は驚きの声を上げる。
「ボ、ボクら三人で、あの車追いかけてみない?」
「落ち着けって!相手サツだぜ!?しかもいかにもインケンなツラしてっし、バレたらゼッテーネチクソ言われっゾ!!」
「い、いやまあ、そうなんだけど、ついていってもできる事あんまりないかも知れないけど……ずっとこうやって晃や羽黒氏と距離出来るのイヤだなって……もう一歩だけでも近くに行ってみたいなって……」
更に無謀な提案を続ける賢治を諫める宏だったが、賢治は続けて自分の思いの丈を吐露する。
宏や亜由美の心にも燻っていたその気持ちを受け、宏はそれ以上何も言えなくなってしまう。
「……いや、行きましょう!警察が怖くてハッカー出来ますかって話ですよ!羽黒さんとの愛を取り戻さなきゃ!!」
「亜由美チャンまで冷静じゃな……いのは元からか!チキショーそんな事言われちまうとヨォ!」
賢治の声で、珍しく怯んでいた亜由美の心が再び動き出す。
完全にブレーキ役がいなくなった状況で、仕方なくブレーキを踏んでいた宏だったが……
「……オレっちまでその気になっちゃうっツーノ!タクシー代割り勘だぜェ!!」
とうとう宏も腹をくくる。
心が決まれば行動あるのみ。宏は船橋の車を追うべく、駅前タクシー乗り場に走り出した。
「ヘイ、オッチャン!あの車追ってく……」
「あぁ!?タクシーに車を追えだあぁ!?」
「「「(アッ、やばいハズレ引いた)」」」
宏が声をかけたタクシーの運転手は、見るからに頭の固そうな頑固親父という風貌の中年男性。
自分達の行動を受け入れてくれそうにもない男の荒い声に、三人は早くも大失敗を予感した。
「刑事ドラマみてぇな事言ってんが……冷やかしとかイタズラじゃねえだろうな?アッシにワケ言ってみな?」
「あ、亜由美チャン、ヨロッ!」
「私ぃ!?あーいや、ちょっと複雑な事情が絡んでて、一口に説明できなくてェ……」
恐怖のあまり舌が回らなくなった宏は亜由美に無理矢理話をバトンタッチする。
が、流石の亜由美も頑固親父は怖いようでいつもの調子が出ない。
「と、友達の為……です」
「友達の為だぁ!?よくもそんな事が言えたな!!」
「ほ、他当たるッス、スマセーン……」
二人以上に舌が回らない賢治が苦し紛れを口にするも、親父の声は更に荒ぶる。
遠目に見える晃と麗華はもう車に乗り込む寸前、埒が開かないと判断した宏が話を切ろうとしたその時、事態は急変する。
「気に入ったーーー!!!このご時世にも関わらず気持ちのいい若人がいたもんだ!乗ってきな!!タクシー運転歴30年を誇るこのアッシ!巌城 紋寺のカーチェイスを魅せてやろう!!」
「えっ」「カーチェイスは別にしなくてもいいです……」「やっぱハズレ引いたんじゃネーノこれ…」
態度の豹変を受け唖然としている間に、満面の笑みを浮かべる紋寺がやや強引に三人を車内へと押し込む。
古風ながらも友情を尊ぶオヤジ•巌城紋寺の変なスイッチを入れてしまった事で、三人は暴風を追う為の暴風を得た。
「シートベルト締めたな!?トバすぜ、ベイベー!!!」
「「「トバさないでぇ〜〜〜!!!」」」