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鉄拳の騎士  作者: sui
第二話 アジフライ狂騒曲
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第二話 1

時系列は1話→プロローグ→2話です。

「ウルトラドラゴンダイナマイトパァァァァァンチ!!!」


「ださっ」 「えぇ……?」


 晃の放った必殺技、ウルトラドラゴンダイナマイトパンチが岩の晶獣の胴体に命中。

剣晶だけを残し、粉微塵に砕け散った。

巨大化した晃の右腕の装甲が開き、排熱の蒸気が上がる。


「あっちぃ!!……へへっ、やってみるもんだな」


 排熱を終えた右腕は、巨大化したプロセスを逆再生するように元の形へと戻る。


「こ……これは驚いたな。まさか君がその力を身につけるとは……」


 ヴェノムジェスターは銃口を晃に向け、二歩、三歩と後ずさる。

平静を装ってはいるものの、その歪んだ声からも動揺の色は隠せていない。


「散々舐めた扱いしてくれたなぁ、ピエロ野郎!!次はお前だ!!」


 戦う力を得た。そう確信した晃にもう恐れはない。

銃を向けられても気にせず、ジェスターとの間合いを詰めていく。


「殴り合いに付き合う気はないよ!」


「STONE GRAY」


 麗華に奇襲を仕掛けた時のように剣晶を装填し、晃に向けて放つ。

剣晶が晶獣へと変化して晃に襲いかかるが、麗華を仕留める為に用意された大地の茶色(グラウンドブラウン)と数を揃える為の石の灰色(ストーングレイ)では出力に差があるようで、晃の拳に力負けしている。


「オラァ!今更こんなもん相手になるかよ!」


 一度は晃を殴り伏せた石の晶獣は、もはや敵としての機能を果たさない。

十分な防御力を得た晃は相手の拳を正面から受け止め、即座に殴り返して圧倒する本来の戦い方を取り戻していた。


「だろうね、ではさようなら!」


 晃が晶獣を殴り伏せている間に、ジェスターは石の灰色(ストーングレイ)を連射して頭数を揃えていた。

六体ほどの晶獣を壁にして、悪の道化師は闇の中へと逃げ込んだ。


「くそっ、なんでこんな事に……!」


 最後の最後に呟いた、威厳のない一言は運良く誰の耳にも入らなかった。


「ハァ……ハァ……待てやコラ!!逃げんじゃねえ……!!」


 晃は残された晶獣を相手取ろうとするが、初めて鎧を見に纏った事や、必殺技を放った事でエネルギーを消費している。

加えて鎧を纏う前に腕に受けた痛みが疼き出し、息を切らし始めていた。


「FROSTYWHITE」 「RE-IGNITION」


 ようやく起き上がり、戦う力を取り戻した麗華が必殺技を起動させながら駆け出す。

落とした剣を再び拾い、晶獣の隊列にそのまま飛び込んだ。


「フッ!ハッ!!ヤァァァァ!!!」


 細い身体で敵と敵の隙間に入り込み、細やかな動きで迫り来る攻撃をいなし、ここぞというタイミングで剣先から氷柱を展開。

二体の晶獣を一気に貫いて破壊する。


「……なんだよ、もういいのかぁ?」


 晃も負けじと前線へと躍り出た。

助けてもらうのではなく、共に戦う。

ずっと独りだった今までの喧嘩とはまるで異なる不思議な気持ち。

満身創痍だった晃の心に再び火が灯る。


「不覚を取ったままでは終わらないわ。目の前の敵は全て倒す!!」


「なら、俺の喧嘩を参考にするこったな。必殺技をかます時はちゃんと技の名前を言うんだよ!!」


「関係ないでしょ、それ!あんなかっこわるいの叫ぶくらいなら黙ってた方がマシ!!」


 横に並んで軽口を叩き合う、力を取り戻した若き鎧の騎士が二人。

連携なんてまるで取れない、野蛮で自分勝手な男女が二人。

この二人を相手にするには、石の晶獣達は弱すぎた。




 全ての晶獣が片付き、黒い霧が晴れる。

剣晶を取り外し、鎧が解除・分解されアーマライザーへ格納されるとそこにいるのは二人の高校生のみ。


「お前には……言いたい事が山ほどあるなぁ?」


「あなたには……言いたい事が山ほどある」


 流れと勢いで始まった共闘が終わり、残されたのはお互いに対する疑問。

何故お前が?お前は一体何者なんだ?

頭の中で膨れ上がる疑問を、どちらが先に口に出すか。

そんな睨み合いの空気を、間抜けな音がかき消した。


 大きく、何度も何度も響くのは腹の鳴る音。

緊張感を破壊された晃は目を丸くして、麗華の表情は凍りついた。


「お、おい。なんだそのツラは!俺じゃねえよ!!いやハラは減ってるけどさ……俺こんなでけえ音鳴らねえもん!俺じゃ……あっ」


 腹の音は自分ではない。この場には自分ともう一人しかいない。

晃が喋り、腹の音が鳴る度にもう一人の顔が強張ったままどんどん紅潮する。

ここまで確認して晃はようやく、この残酷な現実に気がついた。


「おっ……おまっ……え……?」


「戦いの後は……ど、どうしてもお腹が空いて……すごく……空いて……」


「そ、そっかぁ……たいへんですね……」


 普段はクールで、戦いは凛々しく。おなかがすいたら、かなりポン。

手で顔を覆い俯いた麗華を前にして、晃は今までにない程に気の毒な気持ちになった。


(ど、どうすんだこの空気)


(ど、どうしようこの空気)


 ピリピリした空気は一気に白け、言いたかった事と聞きたかった事は全て腹の音にかき消された。

お互いに言いたい事も言えないまま、空虚な時間だけが過ぎる。


「あーじれってぇ……しゃあねえな、俺んちで飯食ってく?」


「えっ……?」


 しばしの沈黙の後、晃は頭を搔きながら提案する。

とにかく居心地の悪い空気をどうにかしたかった。

難しく絡まった事情の解き方はわからないが、空腹を抱えた人間の救い方だけはよく知っている。


「俺ん家、お婆ちゃんが定食屋やっててよ。そんな高級じゃねえけど腹いっぱいにするなら最高の店だぞ」


 晃と祖母の住む家の一階部分に『定食屋あきかぜ』がある。

祖母とパートで働く主婦数人で営業する小さな規模の店だが、地域の住人や近隣の勤め人達の昼食の場として親しまれる古き良き食堂だ。


「このへんじゃ一番うまいって近所のおっさん共からは評判いいんだ。身内だから贔屓するわけじゃねえけどよ、俺も婆ちゃんのメシは世界一うまいんじゃないかって……」


「そ……そう、なの?」


 麗華は今までよりずっと小さな声で返事をする。

遠慮している風ではあるが、顔を覆う指を開き、隙間から覗いた目には期待の色が見える。


「じゃ、じゃあ……いきますか?」


「…………仕方がないので、是非」


 この期に及んで「仕方がない」などと格好をつける麗華に晃はため息をつく。


 色々と突っ込みたい点はある。

だが晃にとってはそれよりこの状況を祖母にどう申し開きするかの方が重要な問題なので、黙って言い訳を考えつつ麗華を家まで連れて行く事にした。

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