第十三話 3
激しい銃撃音、銃弾を弾く鉄の音、少しづつ穴が空き壊れゆく倉庫。
森川さんの奮闘を思いながら、麗華達は外で息を呑みじっと決着を待つ。
「麗華さん!もっと倉庫から距離を離して!!」
銃撃音が止んだ直後、見慣れないガトリングガンを両手に持って森川さんが飛び出した。
麗華達と倉庫の距離を視認した途端、慌てた声で退避を叫ぶ。
「森川さん!?一体何を……」
「いいから!この位置だと巻き込まれます!急いで!!」
状況は読めないものの、森川さんの声にただならぬものを感じた麗華はフラフラの晃を任せ、蘭を背負って言われるがまま倉庫から距離を離す。
しばらくの間の後、地響きを伴って倉庫が崩壊を始めた。
「これが今の私に出来る精一杯、最後の賭けです」
「こ、これ大丈夫なんですか!?色々と!!」
「マジかよ……」
港湾倉庫一つを犠牲に、正体不明の敵を押し潰して殺害する。
国のバックアップを受けている組織が取るにはあまりにも豪快で乱暴な手段。
麗華だけでなく、意識が途切れかけている晃ですらドン引きした。
「……ダァリャアアアアアアッッ!!!」
崩壊が終わり、港が静まり返ったのも束の間。
大剣で瓦礫を押し除け、潰れたはずのオズヴァルドが怒りの雄叫びと共に這い出てきた。
「ゼーッ………ゼェーッ……ど、どこまで貴様は……!倉庫は資材を備蓄する大切なものではないのか……!!?」
息を切らしながらゆっくりと近づいてくるオズヴァルド。
酷く疲弊している様子はあるが、やはり装甲には一切のダメージが無く、錆で固めたはずの関節もその機能を取り戻していた。
森川さんはヘッドギアの裏に冷や汗を流し、麗華達の前に出て再び銃を構える。
不毛な削り合い、絶望の第二ラウンド。
しかし、突然オズヴァルドを包むように展開する紫色の光柱がその開催を未然に止めた。
「これは母上の転移魔法……潮時ということか。運が良かったな」
魔法の紫の光。すなわちロミルダによる戦闘終了の合図。
それが母の力だと理解した瞬間、荒れた息で怒り狂っていたオズヴァルドはまるでスイッチを切り替えたように冷静さを取り戻した。
その異様な変貌ぶりは、人に似た姿をしているこの男の精神構造が人間と異なる決定的な証だった。
「だが、今回の戦いで底は見えた。やはりお前達はオレ達に支配されるべき下等な民、弱き民だ。次に相見える機会があったとて、貴様らがオレに対して打てる手など何一つない!」
魔法の力で足元から消えていくオズヴァルドは、去り際に大声で勝利宣言を残す。
〈そンな顔するなよ、恵くン。今回はお手柄だったよ〉
追い払う事は出来たものの、ひとつも傷をつける事ができなかった森川さんは悔しさに震え、篝火の優しい声には応えず黙って下唇を噛んだ。
「では、さらばだ。今のうちから自らの死を覚悟し、備えておく事を推奨する!」
「クソッ、むかつく野郎だ……!」
まさに意識を失う直前だった晃は、終始自分達を見下し続けなら去るオズヴァルドに苛立ち、目を閉じる前に毒づいた。
謎の港湾倉庫倒壊事件と、羽黒コーポレーション社長令嬢の誘拐事件。
それらに巻き込まれて大怪我を負った芽吹晃。
特防省によって全てにカバーストーリーが用意され、剣晶と晶獣の存在は人々から徹底して遠けられる。
「もうそろそろ、隠し通すにも限界があるでしょ……」
翌朝、全てを誤魔化そうとするニュース速報を見ながら亜由美が呟いた。
彼女の指摘通り、ヴェノムジェスターが起こしてきた事件への隠蔽を訝しむ人間は日に日に増えつつある。
SNSは怪情報に溢れ、情報を精査し細かい矛盾を考察する動きは強まり、陰謀論者集団•殉教者達は更に活発化していく。
ヴェノムジェスターの後ろにいた存在。
彼方――ロミルダ曰く異世界からの侵略者。
神聖騎士団を名乗る彼らの牙は、ゆっくりと此方に食い込み始めていた……




