第十三話 1
「その決闘、私が預かりますっ!!」
「も、森川さん!?何故……」
晃と麗華に訪れた絶体絶命のピンチ。
現れたのは、本来戦う立場にいない筈の森川さんだった。
それぞれの手に大きなジュラルミンケースを一つずつ持ち、両腰に拳銃型デバイスを下げ、普段着ている受付嬢の服とはまるで異なる戦闘服を見に纏う。
見慣れた筈の森川さんの、見た事のない姿がそこにある。
「貴様何奴……ってなんだその破廉恥な服装は!!それでは服を着ていないも同然だ!!」
しかし、その戦闘服は身体にぴったりと張り付き色気あるボディラインが丸出しの状態。
あまりにも場違いなセクシーに対し、オズヴァルドからは敵意より先にツッコミが飛んでくる。
「なっ……!!す、好きで着てるわけではありません!!プロトタイプはそういうものなんです!!」
価値観の異なる地球人類の敵、異世界からの尖兵……から飛んできた妙に真っ当な正論。
戦うために押し殺していたが、内心ずっと気にしていた事を指摘された森川さんはたちまち赤面し、いつもの調子に戻ってしまう。
「プロトタイプ……?」
〈そう、プロトタイプ。アーマライザーの試作品の一つ〉
聞き慣れない単語。見慣れない戦闘服。森川さんに戦闘能力があるという事実。
それらに怪訝な顔をした麗華を見て、アーマライザーの無線機能から篝火がようやくその概要を説明し始めた。
〈そンな顔しないでヨー。知っての通りワタシは天才だが、アーマライザーを完成させるにあたって相応のトライ&エラー、そしてデータが必要になるって理屈はわかるだろう?〉
「……でも、森川さんを戦いの場に引っ張り出すなんて」
戦闘に関わる情報であるにも関わらず自分達に共有されていなかった事は麗華にとって不服だった。
しかし、それ以上に気に入らなかったのは森川さんを前線に送った事だ。
JRICCの仲間として、大人としていつも頼りにしている森川さんが命の危険に晒される事。
本来戦うべき自分達に今その力が残っていないが故にそうさせている事実に、どうしようもない嫌気を覚えた。
〈安心したまえ。文武両道かつ心身ともに健康なスーパー優等生である恵くンはね、テスターとしてうってつけだったのサ。彼女からは有用なデータをいくつも取らせてもらったもンだ〉
篝火は麗華の憂鬱など知った事ではないと言わんばかりに、森川さんのスペックと実績を自信満々に語り始めた。
〈プロトタイプの戦闘能力はアーマライザーに劣る。だが、それを計算に入れた上で恵くンはこの緊急事態の命運を賭けるに値する……〝戦える〟女なのサ〉
戦局をひっくり返す決定的な根拠はない。
しかし篝火の言葉の締めには確信の笑みが混じる。
それは麗華の知らない森川さんの姿――戦える女の一面を知る戦友として、全幅の信頼を置いている証だった。
「貴様のような痴れ者を母上はHENTAIと呼んでいたなァ。ここは神聖なる戦いの場である!!HENTAIの来る場所ではないッ!!」
「だから違うって!!……これでも、立派な戦闘服なんですよ?」
ジュラルミンケースを手放して懐から青い剣晶を取り出し、オズヴァルドを睨む森川さんの眼は麗華達が見たことのない戦士のものに変わっていた。
「ホゥ……?死にかけのカス共よりはマシかもしれんな。面白い、やってみせよ!!」
剣晶と共に戦意を見せた瞬間、オズヴァルドも呼応し大剣の先端を森川さんへ向けた。
珍妙な乱入者を正式に敵と見做し、今から斬るという意思表示だ。
「言われずとも!!」
「O-N-S-L-O-T」 「IRONBLUE」
鉄の青の剣晶を右腰の拳銃型デバイスの側面にあるスロットに挿入すると、いかにもプロトタイプといった辿々しいシステム音声が鳴る。
「……セットアップ!!」
両腰の銃を抜き、撃鉄の位置に存在するコネクター同士を合体させて身体の前面で十字の形を作る事がプロトタイプにおける装着プロセス。
必要性が極めて怪しい、妙な動作を挟んだそれには篝火の趣味が垣間見える。
〈ここんとこのポーズ、昔の映画から丸々パクったやつだからそういう意味でも表に出すつもりは無かったんだよネ……〉
「I-G-N-I-T-I-O-N」
剣晶が光り、銃を握った両腕から全身へ装甲が成形されていく。
両肩、胴、腰、脚へと形作られる鎧はプロトタイプの名の示すようにアーマライザーに比べて装甲面積と厚さに劣る。
「O-N-S-L-A-U-G-H-T」
最後に頭部をなんとか覆い隠す程度のヘッドギアが装着され、装着完了のシステム音声が鳴りプロセスが完了。
森川恵は二丁拳銃の青いガンファイターへと姿を変える。
「くっ……」
麗華の傍には意識を失った蘭と、出血多量によりもはや言葉すら発する事ができなくなった晃。
本来なら自分が戦い続けるべきなのに、麗華自身の身体も力を使い果たしてしまった。
「麗華さん。芽吹さんと蘭さんを連れて、この倉庫から離れてください」
それでも、オズヴァルドに相対する森川さんの言葉と背中は頼もしかった。
戦えない不安、悔しさ、罪悪感が薄らいでいくのを感じた。
この背中には自分達の命運を賭けるに値すると、そう思った。
「親しい人達の……友達の為なら、どんな無理だって通してみせる!!」
「砕き甲斐のある良い覚悟だな!久しぶりに剣を振うに値する!行くぞッ!!」




