第十話 1
鉄拳の騎士に登場する剣晶の名前は、極力実在の色名から引用しているのですが
他の剣晶との語感を統一するため、レグホーン(Leghorn)という色をレグホンホワイトという名前の剣晶として扱っています。
実物はどっちかというと白というより黄色っぽい感じです。
「コケケーーッ!!!」
人間をキメラにしたかのような晶獣の喉から出るのは、人間の声帯を用いた鶏、としか形容できない見た目通りの不愉快な声。
強靭な脚から放たれるキックを、麗華は紙一重で回避する。
「かかった……スプラッシュマイン起爆!!」
スプラッシュマインとは、ウォーターブルーの剣晶の力で形成した水の力を持つ地雷。
晶獣の足が地面についた瞬間に起爆し、粘性を持って飛び散った水飛沫が全身を覆うように付着して動きを封じる。
「コケッ!?コッ……コッコッ…?」
「芽吹くん!今よ!!
「よし来たあ!!!」
「GROWNDBROWN」 「DISCHARGE」
敵の取り巻きとして用意された低級の晶獣をまとめて薙ぎ払った晃は剣晶の力を充満させた左腕を勢いよく地面に突き差し、地中から剣を引き摺り出した。
無骨で重く、斬るというより叩く為の巨大な両手剣。
晃のエヴァーグリーンと相性のいいグラウンドブラウンの剣晶によって成形されたそれは、大地の力強さと荒々しさを表現したかのような形をしている。
「こいつでトドメだ!!名剣あきらまる!!!」
「だっっっさ……」
超重量の名剣あきらまるは晃自身にすら持ち上げるのに一苦労がかかる代物。
ゆっくりとあきらまるを引きずるようにして近づく晃に、身動きが取れない晶獣は恐怖を覚える。
「コケ……コケ…コ…!!」
「オオオオッ!!ラァァァァァッ!!!」
右下から左上に斬り上げて一閃。
斜めに斬られた晶獣は、中心にある剣晶を残して真っ二つに裂かれる。
「コケーーーーーッ!!!」
晶獣は鶏の羽根を辺りに散らして爆散。
ゴトリと落ちた、少し黄色い白の剣晶から取り込まれた人間が吐き出される。
晃と麗華が手を組んでから、そして晃と麗華が大喧嘩してからも何度か繰り返された任務完了のプロセス。
ヴェノムジェスターの動きに対して後手に回らざるを得ない状況に変わりはないものの、アーマライザーと剣晶の扱い、闘いの練度。
そして二人のコンビネーションは磨き上げられていく。
「ヘッ、まさかニワトリ出してくるなんてなぁ。いよいよネタが切れたのかよ?」
〈鶏の白か、いやいやネタみたいな剣晶だけど面白い使い方だったと思うよ?鶏の脚力をうまいこと昇華したもンだと褒めてやってもいい。ただ晃くンと麗華くんンにはちょっと及ばないンだなぁこれが!ウヒャヒャヒャウケるー〉
経験は晃に確かな自信を与え、ついでに篝火に余計な余裕を与えた。
「クソッ……またか……!!」
晃達が勝ち続けていると言うことは、同時にヴェノムジェスターが敗走を続けている事を意味する。
今回も敗色が明らかになると、即座に逃げ出す準備を始めていた。
「……まだよ!!」
だが、今日こそは逃すまいと麗華が走る。
晃が晶獣にトドメを刺す裏で密かに死角に迫り、持ち前の素早さで剣の間合いまで距離を詰めていた。
「さ、させるかッ!!」 「SHOtgUn_baRReL」
ジェスターは反射的に腰に下げた増設バレルにガンドレッサーを装着する。
ショットガンバレルの名の通り散弾銃の形になったそれをクイックドロウの要領で引き抜き、銃口を麗華に向ける。
「吹き飛べぇッ!!」
「FIRERED」 「RELOad」
ジェスターが対麗華用に秘蔵していた火の赤の剣晶を装填して引き金を引く。
「速ッ……!?アアアァーッ!!」
剣に裂かれるより先に炎の散弾が発射され、麗華の身体が炎に包まれて吹き飛ぶ。
「羽黒ッ!!……テメェいよいよガチでやる気だな!!上等だ覚悟しやがれ!!」
「お断りだね!!」
麗華が撃たれた事に激昂した晃が続いてジェスターに迫る。
正面から戦わんとする晃に明確な拒否反応を見せるジェスターは、ポンプアクションで排出されたファイアレッドをキャッチして収納し、新たな剣晶を取り出した。
「GUNMETALGLAY」 「relOad」 「sLUG_MoDE」
銃としての力を引き出すジェスターの持つもう一つの隠し弾、砲金の灰色。
ショットガンバレルにあるレバーを切り替えて撃たれた弾はスラッグ弾の形を形成し、並大抵の銃弾ではびくともしない晃の装甲に有効打を与えた。
「ガハッ!!」
〈ガンメタルグレイだって!?あのヤロウあんなレアモノ隠しもってたなンて……〉
命中した腹部を抑えて蹲る晃。
希少な剣晶による強烈な不意打ちに、篝火の声色にも危機感が宿る。
「このっ……だったらスピードで……ッ!」
一方の麗華はライトニングイエローの剣晶でサンダーブラストを形成して反撃しようとするが、相性の悪い火の攻撃を受けたダメージは大きく、思うように身体を動かせない。
「次こそは、次こそは必ず……!!」
戦闘能力が低いと見做されていたジェスターから決定的な一撃を受け、絶体絶命の状況に陥る二人。
だが、ここまで優位に立っているにも関わらずジェスターは継戦を拒む。
ショットガンバレルを外したガンドレッサーの銃口から上がる黒い霧に紛れ、いつものように逃げ出した。
「ゲホッ!!ゲホッ!!……あ?戦る流れじゃねえのかよ……?」
〈フゥン……妙だネ。戦うには十分な剣晶と、やたら正確な射撃技術を持っているのに……奴は何を考えてンだろう?〉
戦闘が終わり、二人は危機から脱する事ができた。
しかし、わざわざ好機を逃して去ったジェスターの意図が読めない篝火は困惑し、首を傾げる。
翌日。
この日の放課後はたまたま宏や賢治、亜由美とも予定が合わず、麗華と共に行動する用事も無い。
一人で彷徨いたり、ゲーセンに行く気も起きない。早めに家に帰る気にもなれない……そんな日の晃は、学校の屋上に上がって時間を潰す事にしている。
学生鞄を枕にし、屋上に寝転んでゆったりと空と景色を眺める。
その行為が特別楽しいわけではないが、心静かに過ごすにはちょうどいい場所だ。
「あ〜、晃くんこっち来るの久しぶりじゃーん!」
寝転ぶ晃を見下ろすようにして視界に入ってくるのは、教師の陶子だった。
「なんだよ、あんたもまだここ来てんのか……」
憎まれ口を叩くが、晃は彼女がここに来る事を理解していた。
「そりゃ、ここは元々私の特等席だもーん」
陶子は慣れた動きで晃の横に寝転ぶ。
晃は鬱陶しそうな声と態度を向けるが、特に拒絶する訳でもなく陶子を隣に迎え入れる。
「ケッ……相変わらず変な女だよ」
晃の孤独は、いつも何かに邪魔される。
初めて晃がこの場所に来た時、陶子と交流を持ち始めた時もそうだった。
「なーんか、思い出しちゃうよね。初めてここで晃くんと会った、去年の事とかさ――」




