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鉄拳の騎士  作者: sui
第五話 樹木の壁 光の壁
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第五話 1

「「ONSLAUGHT!!」」


 昨日と同様の決まったプロセスを経て、鎧の装着を終えた二人に晶獣の雷撃が容赦なく襲いかかる。


「シュウウウウウゥゥ!!!」


「来るわ!防いで!!」


「応!!」


 素で受け切れる威力ではないと判断した麗華はホルダーから木の茶色(ウッドブラウン)の剣晶を取り出し、即座にアーマライザーの第2スロットに装着する。


「WOODBROWN」 「DISCHARGE」


 アーマライザーがシステム音声を発し、剣晶が光と共に木製の盾を生成する。


「ラピッドウォール!」


 ラピッドウォール(迅速な防壁)の名に相応しく、雷撃を上回るスピードで生成された盾が攻撃を防ぎ、真っ黒に炭化して焼失した。

出力の低いウッドブラウン由来の盾なので堅牢とは言えず、小盾(バックラー)程度の大きさしか作れないが、代わりに発動が速く、生まれ持った戦闘センスによって的確な受け流しを行える麗華には盾の小ささはそこまで問題にならない。

麗華はこの剣晶を中〜遠距離からの攻撃に対して、緊急防御の手段としてよく用いている。


「アババババッ!!あっち!あっちい!!」


 一方、特に考えもせず素で受けた晃は全身に痺れと電熱が回り、間抜けな声を上げてのたうち回る。


「ア……ア………!」


 しかし、その間抜けな悲鳴を聞いた晶獣はまた動きが鈍り、もがき苦しみはじめた。

まるで晶獣の中にいる宏が攻撃を拒否するかのように。


「ちょっ、芽吹くん!?」


「ジビビビッ!!うるせえ!!だって盾出せるなんて知らなかったんだよ!!」


「……そういえば説明してなかったわね。ウッドブラウンの剣晶は――」


〈ハローエブリワン。ワタシだ。ここからワタシが説明しよう!〉


 突然、晃と麗華の脳に不愉快な声が響き、二人の会話に割って入る。

よく喋るJRICC主任研究員、桃代篝火の声だ。


「うわっ!?なんだこれ!?頭に直接クソピンクの声が聞こえてきやがる!!」


〈クソピンクゥ!?ワタシのあだ名それなのぉ!?〉


〈ま、まぁいいや、よくないけど。よくないけど!!……アーマライザーには戦闘中の君たちをモニタリングできる機能がある。研究室から君たち二人の五感全てをチェックし、敵を分析し、脳に直接アドバイスを送ることができるンだ〉


 「便利なのはわかるけどよ、やってる事全部覗き見されてる感じなのはいい気しねえな……」


「主任の分析は正確だし、戦闘には不可欠よ。これにも慣れてもらう必要がある。主任の言ってることに返事はしなくていいから」


〈麗華くン冷たいンだよねー……でも晃くンは優しい子だって信じてるから!今からいい話いっばいするから!〉


〈いい話その1。敵の晶獣……あれはライトニングイエローかな。雷の力を使うあいつと、土の力を使う君の剣晶、エヴァーグリーンとは相性がいい。早い話が雷撃を外に逃がしやすい性質があるからあの程度のダメージで済ンだのさ〉


「あの程度って……結構ビリビリしてキツかったんだけどお!?」


〈拳を受けるのとはワケが違うンだよ?同じように防ごうとしたってダメさ。次は麗華くンみたいに上手に受けたまえ〉


「ウウウ………ウウ……シュウゥウウウウウウ!!!」


 篝火の話に耳を傾けているうちに晶獣の様子が元に戻り、両腕に雷の力を溜め始める。

一発目より強い二発目を撃とうとしている事が見ているだけで理解できた。


「ッ!!来るわ!!私のやり方を真似して!!」


「WOODBROWN」 「DISCHARGE」


 麗華は晃に手本を見せる為、力を使い果たしたウッドブラウンを取り外し、新しいものへと付け替えて再びラピッドウォールを生成する。


「お、おう!こうだな!!」


「WOODBROWN」 「DISCHARGE」


 麗華の要領を再現し、晃も第2スロットにウッドブラウンを装着する。

迅速な動きで木の盾が生成される……事はなく、何故か晃の左腕から小さな木がいくつも芽吹き始める。


「おっ?」 「は?」 〈ホワッツ!?〉


 盾が出ない、想定した戦法が使えない、それでも攻撃は眼前に迫る。


「ああ、もう!!後ろに下がって!!」


 咄嗟の判断で晃の前に立ち、盾を構えて雷撃に立ち向かう。

晃の方に向かう雷撃もまとめて相手にすれば、ラピッドウォールは防ぎきる前に崩壊してしまう。

雷に強い土の属性のおかげでダメージを抑えられた晃と異なり、優位性のない氷の属性を持つ麗華では耐えられない。

危険な状況を理解している麗華と篝火は冷や汗を垂らす。


「やだね!!!」


 ただ一人、晃だけは違った。

置かれている状況は理解していないが、自分が何をすればいいか――即ち、想定外の挙動を起こした左腕をどう使えばいいか。

何故かそれだけははっきりと理解していた。

まるでエヴァーグリーンの剣晶が、晃の脳に直接使い方を教えているかのような感覚だった。


「ドドンが……ウッドォー!!!」


〈ウワッ〉 「ださっ」


 いくつもの木々が芽吹き、まるで苗木の塊のようになった左腕をゲームセンターの床に叩きつけ、穴を空けた。

腕から伸びる木々は地面を潜り、瞬く間に大木へと成長して再び地面を突き破り顔を出す。

天井まで伸びたそれは晃と麗華を守る樹木の壁となり雷撃を完璧に受け止め、燃え広がって塵へと還った。


「ウッドブラウンの出力でこんな芸当が出来るなんて……」


〈いい話その2。君に渡したウッドブラウン、ストーングレイ、グラウンドブラウン。SNS映えしない色合いだがこれらも土の力を持っているので君と相性がいい……からこうなったのかなあ、予想外だオモシレー!〉


 今までの戦いではあり得なかった展開に麗華は困惑し、篝火は歓喜する。


「よし、いけるな!今度は俺達がブン殴る番だぜ!!」


「……ええ!仕掛けるわよ!!」


 あり得なかった展開だが、それを運んできた晃の存在が麗華の困惑と不安を和らげ、新たな晶獣に対抗する勇気を与える。


「宏の声で呻いてんじゃねえぞ、ビリビリ野郎!!」


 晶獣が三発目を撃つ前に駆け寄り、先陣を切ったのは晃の拳。

顔面に強く突き刺さるが、固体と気体の中間のような質感を持つ晶獣の身体には決定打にならなかった。

友人の声をした獣を、殴りきる力が湧かなかった。


「シュゥゥ……ジジッ!!」


「なっ!?あっちぃーーーーーーーー!!!」


 晃の拳が刺さった状態で晶獣が帯電すると、そのまま電流が晃の身体に流れ込み、たまらず拳を抜いてしまう。

間髪入れず放たれた雷の掌が、体勢の崩れた晃を吹き飛ばす。


「FROSTYWHITE」 「RE-IGNITION」


「ならば、これよ!ブライニクルランチャー!!」


 麗華がフロスティホワイトの剣晶を押し込んで放つのは、晃に何度か見せた事のある麗華の必殺技。

氷柱(ブライニクル)を纏った剣先が晶獣の胴体を貫く。


「ウウウウッ!!シュゥゥ!!」


 貫かれた痛みに苦しむ様子はあるが、やはり帯電による電撃がカウンターとして麗華に襲いかかる。

麗華は氷柱から身体に電流が流れ込む前に剣を分離。

切り離された氷柱は融解し、一瞬で蒸発した。


「参ったわね、ブライニクルランチャーが決定打にならない……!」


「おい!クソピンク!!これじゃ話にならねえぞどうすんだ?!なんか知恵出してくれよ!あとあいつが宏の声してる理由も教えろ!!」


 雷の晶獣は肉弾戦に積極的ではなく、近づいた二人にはチャージが短く威力の低い電撃で牽制し続ける。

麗華は回避、晃は防御に専念し、篝火が何か知恵を絞り出すのを待つ。


〈注文が多いなあ!山猫軒かよ!!まぁいい、あれが妙に強い理由はおおよそ見当がついたところだ〉


〈……剣晶に蓄積されたエネルギーが妙に強い、なンらかの手段で外から注入してるなアレは〉


「まさか……!?主任、晶獣発生の目撃者曰く、風間くん……あの声の持ち主から何かを吸い取るような動きがあったと聞いています」


 早急な状況打破の為、出来る限り篝火と会話したくなかった麗華も観念して口を開く。


〈ハイ、ビンゴ!おそらく剣晶に装着された追加パーツ……あれが人間から生命エネルギーを吸い取って蓄積させ、晶獣の体内を循環させる……心臓のような機能を持っているンだ!お友達の声がするのもそのせいじゃない?知らンけど〉


「じゃ、じゃあその部品をぶっ壊しゃいいんだな!」


〈おそらくね。エネルギーの循環を阻止すれば勝機も生まれるだろうよ。剣晶を回収すれば中に蓄積されたお友達の生命エネルギーもいっしょに回収できる。うちの息のかかった医療センターを使ってエネルギーをお友達にお返しすれば……〉


「宏は助かる……あいつぶん殴る事が宏を殴る事にはならねえって事だな!!」


 晃の心に少しだけ残っていた気がかり、宏の声がする晶獣と宏の関係。

晶獣を傷つける事が宏を傷つけることに繋がるのではないか。

何も理屈を知らないが故に、理屈のわからない不安に駆られていた。


「しかし有効打を与える事が出来ない……出力の点で期待できる剣晶は晃くんの持っているグラウンドブラウンだけど」


〈頭の氷を溶かしたまえ、麗華くン!もう出力の数字だけで考える事はないンだよ!……簡単な話だ、絶縁体を使うンだよ〉


「絶縁体……ストーングレイを使えと!?」


〈言いたい事はわかるよ?ストーングレイは中距離帯で使う牽制用の射撃兵装、奴の得意レンジで撃つには心許ないよね?〉


〈しかし、さっきのウッドブラウンの件で晃くンには君とまったく違う兵装が発現する事が明らかになった。碌なテストもやってないが相性もいい。そいつに賭けてみよう〉


 晃が戦いに加わった事で、麗華と篝火の中にあった戦いの常識が変わり始める。

戦士としてはまだ未熟で、不確定要素の多い荒削りの可能性。


「……分の悪い賭けではなさそうね。芽吹くん!しばらくそいつの相手をお願い!!」


「お、おう!ビリビリすんのつらいから早めに頼むぞ!」


 だが、信ずるに値する。

篝火が晃を仲間に引き入れる事を決めた時に、麗華の戦いに晃が首を突っ込んできた時に決めた事だ。


「STONEGRAY」 「DISCHARGE」


 晃が晶獣に殴りかかり、注意を逸らしている隙に麗華が距離を離す。

中距離の間合いで起動したストーングレイの剣晶は、麗華の左腕をリボルバー銃の形へと変化させる。


「芽吹くん、射線から離れて!グレイリボルバー!!」


「ちょっ!?うわ危ねっ!!」


 間一髪で晃が射線を離れた直後、握り拳ほどの大きさをした石の弾丸が麗華の腕から放たれ、晶獣の身体に突き刺さる。


「シュゥゥ……シュ、シュッ!?」


 撃たれた弾丸は六発。全てが晶獣の体内に埋まり、残留する。

麗華の見立て通り、牽制程度のダメージしか入らなかった晶獣は邪魔をしていた晃が離れた好機を狙い、得意レンジである中距離での撃ち合いに持ち込もうとした。


「シュゥゥ…!?」


 しかし、両腕に雷の力が上手く纏まらず強力な攻撃を放つ事が出来ない。

苦し紛れに放たれた雷撃は隙だらけで威力も弱く、麗華は容易に躱す事ができる。


〈よっしゃビンゴだ。グレイリボルバーの貫通力に難があるのが幸いしたネ、絶縁体が入り込ンだおかげで体内に流れる電流がメチャクチャになってやがる!!〉


「見ての通りよ、芽吹くん。あなたもストーングレイを使って!!」


「お、俺もカッコいいピストルとか出してえ!!」


「STONEGRAY」 「DISCHARGE」


 戦いの好機と、自分に宿る未知の武器に期待を寄せる晃はストーングレイを第2スロットに装着する。

剣晶から血液のように通うエネルギーは晃の両腕に力を与え……


「……なんか思ってたのと違うな?」


 手甲を更にひとまわり包み、肘まで覆う石の籠手を作り上げた。

荒々しく無骨で飾り気がない。しかし堅牢で直感的に扱いやすい。

晃のアーマライザーが生み出す兵装は、そういう傾向が強い。


「まあ……わかりやすくていいか。これが俺の新しい必殺技だ!ゲンコツゴッチン!!」


「ださい……」 〈彼のあのセンスだけはどうにかならないのかな〉


 石に覆われた晃の拳が一発、二発、三発と晶獣に叩き込まれる。


「シュゴッ!?ア……アキ、ラ……」


 苦し紛れなのか、或いは宿っていた宏の意識が何かを感じ取ったのか。

辛そうに晃の名を呼ぶその声は、完全に宏のそれと同じに聞こえた。


「痛えか!?ちょっと我慢しろや!その女にモテてなさそうな身体から……」


「シュ……!」


 晶獣を真正面に据え、息を整えて構えを取る。

晃の喧嘩は完全な我流だが、この構えはどこか空手の正拳突きに似ている。


「引きずり出してやるぞ!!!」


 今日一番の気合を込めて放った拳が、晶獣の体内にある剣晶とそれを包む部品に強く命中した。


「ゴォォォ!!」


 肉が弾け飛ぶように剣晶を包む部品が崩壊し、晶獣の身体を構成していた電気も霧散する。


「へ……ワリィ……な……」


 完全な宏そのものの意識が最後に呟いたその言葉は、晃の耳に届かなかった。


「……っしゃあ!!どんなもんだよ!!」


 その場に残された剣晶がゴトリと音を立てて床に落ちる。

急いで回収しようとした晃だが、ゲンコツゴッチンを装着した手ではうまく拾えず四苦八苦する。


「うわっ、くそっ、邪魔だなこれ!外れねえ!」


「ライトニングイエロー、回収完了」


 麗華は横からライトニングイエローを拾い上げ、アーマライザーから剣晶を取り外して装着を解く。

ストーングレイのエネルギーが尽き、ようやくゲンコツゴッチンが解除された晃も続いて剣晶を外す。


「色々言わなきゃいけない事はあるけれど……とりあえずお疲れ様。これからも頼むわ」


「ヘヘッ、俺にかかりゃこんなもんよ。これからもよろしく」


〈ウンウン、上手いことやったね。二人ともお手柄だ!〉


 晶獣が去り、静寂を取り戻したわくわくハウスにシルバーセキュリティの隊員達が駆け込み、作戦の完了を確認する。


 予定通りライトニングイエローは宏と賢治が搬送された医療施設に運ばれ、吸われた生命エネルギーは無事に宏の身体に戻された。



 今回の一件はゲームセンターで発生した電気火災と処理され、不可解な点や電気怪人の噂はしばらくSNSを騒がせた後、忘れ流される。


 ヴェノムジェスターの尻尾は未だ掴めず、新たな脅威はすぐに迫るだろう。

その時までは、晃達の守った小さな平穏が街を包む。

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