第四話 3
「な、なんだ!?」
「晶獣の出現反応よ。こんな時間帯に出るなんて……」
慣れない緊急事態に慌てる晃と、平静を装うも戸惑いが声色に出る麗華。
「しかも前兆なしのエマージェンシーだ、ヴェノムジェスターの仕業と見るのが妥当だろうネ」
一応は大人である篝火は学生二人ほど取り乱す様子もなく、モニターに向かってキーボードを叩く。
「恵くン!状況を詳しく伝えてくれたまえ!!」
「はぁい!」
備え付けのマイクに篝火が叫ぶと、通話相手である森川さんの声が部屋中に響く。
森川 恵。羽黒コーポレーションの受付を担当する彼女は有事の際、JRICCのオペレーターへと姿を変える。
「晶獣が現れました、街のど真ん中です!シルバーセキュリティの皆さんが向かっていますが、情況は芳しくありません……!」
モニターに再び映された嘉地鬨市の地図に、異常事態を知らせる赤いマーカーが光る。
光が指し示すポイントに、晃は心当たりがあった。
「おい、森川さん!この場所ってまさか……駅前の『わくわくハウス』じゃねーのか!?」
わくわくハウスという間抜けな名前の施設は、晃達が学校からの帰りによく利用するゲームセンターの事。
そして、おそらく賢治と宏が今いるであろう場所。
「そ、その通りです!人溜まりの中にいきなり現れたらしく、現場はもうすごく混乱してて……」
「ヤベェ……賢治と宏が危ねえ!!」
「ねえ芽吹くん、それってまさか……」
晃と知り合って間のない麗華だが、賢治と宏という名前には彼の口から聞き覚えがあった。
いつもつるんでいる二人の友人こそが賢治と宏で、晃なりに大事にしている事は察している。
「おっとお友達かい?だったら尚更急いだ方がいいね。シルバーセキュリティは人命救助やら避難誘導やらで大忙しだろう、晶獣まで手が回ってるとは思えン」
「なんでこうなるんだよ、畜生!!すぐ行くぞ!!」
賢治や宏を戦いに巻き込まない。
自分と麗華に立てたその誓いが、ヴェノムジェスターに嘲笑われているように思えた。
怒りが力に変わり、晃から理屈を吹き飛ばす。
かけがえのない友人に襲いかからんとする晶獣を、殴り潰して黙らせる。
晃の思考が固定され、出入り口に向かって駆け出そうとした。
「落ち着きなさい」
ひやりとした麗華の手が晃を肩を掴み、その動きを止める。
強い力で掴まれたわけでもないのに晃の体は止まり、怒りで上昇した体温が急に冷え、凍りついたような感覚を覚えた。
「なんだよ!?」
「そのまま一人でゲームセンターまで走っていくつもり?」
「うっ……うるせえな、急がなきゃやばいだろ!」
電車数駅分の距離があるゲームセンターまで走るのは体力的にも時間的にも効率が悪い。
麗華の指に頭を冷やされ、ようやくその現実を理解する。
「麗華くンの言う通りだよ。恵くン!すぐ車を出してくれたまえ!!」
「はあい!晃さん!そこから駐車場へ直通する緊急エレベーターを起動します!すぐ上がってきてください!!」
研究所の隅にあった扉が開き、中には森川さんの言う通りエレベーターが見えた。
「おっといけない。晃くン!これを持って行きたまえ!!」
篝火が投げてよこしたのは束ねた剣晶。どれも見覚えがあるものだ。
「ウッドブラウン、ストーングレイ、グラウンドブラウン。君達が健闘して勝ち取った敵の力だ。本当はもっとねっとりうっとりしっとりレクチャーしたかったが時間ないしネ。使い方は実戦で覚えてくれ!」
「あとさ……まーー、どうもワタシはキミに好かれてないみたいで、涙でお布団全部濡らすくらい悲しいンだけど……ちゃンと応援してっからさ……もうちょっとワタシの事スキになってほしい……ハグとキス許すくらいには……」
「大丈夫です、晃さん!私達JRICCにはあなたを徹底的にサポートする用意があります!」
「……正直な事を言うと、あなたの事はアテにしてる。だから私達の事もアテにして」
気まずそうに頬を掻いて目をそらしながら、ろくでもない弁明と声援を入れる篝火。
受付嬢をしている時と変わらないふんわりとした声で、通話越しに激励を送る森川さん。
そして、晃の横に並び立ち、静かで力強い信頼を送る麗華。
ずっと独りで戦ってきた晃の周りに、いつのまにか共に戦う人々が現れた。
「お、おう……」
仲間と共に戦う事も、女ばかりの味方陣営も照れくさく、まだあまり良い居心地ではない。
赤くなった顔を隠すように背を向け、緊急エレベーターの方を向く。
それでも、背中と隣から感じる信頼の心は晃にとって心地が良く、戦う力を与えてくれる。
晃と麗華がお互いの方を向き、軽くうなづけば準備は完了。
滾る怒りを腹に抱え、貰った勇気を背に乗せて、一直線に駆け出した。
「よっし……行くぞ!!」
晃と麗華を乗せて急行したJRICCの車は、シルバーセキュリティの車両に紛れ込む形で現場に到着した。
晶獣の現れたわくわくハウスはシルバーセキュリティの手によって事故現場のようにトラテーブで広く囲われ、第三者を寄せ付けない警戒態勢が敷かれていた。
中にいた客と店員は隊員の誘導に沿って避難し、怪我を負った者は救急搬送される。
その中には、腰を抜かした賢治と意識を失った宏もいた。
「宏!?おい!!宏!賢治!何があったんだ!?」
救急隊員の間に強引に割り込み、担架で運ばれる宏に声をかける。
意識のない宏が応答することはない。
「……え?晃ぁ……?なんでここに……」
「う、うるせえ!そんな事言ってる場合かよ……」
弱り切っていながらも、至極真っ当な疑問を投げかける賢治。
予想していなかった展開に焦り、JRICCに関する事を言うわけにもいかず晃はわかりやすく口ごもる。
「ゲームセンターで事故があったと聞いて、駆けつけたのよ。あなたたちに何かあったんじゃないかって。ね?」
晃が余計な事を喋る前に、麗華が先回りしてフォローを入れる。
「……へへ、なんだよ、センスないなあ。大事な羽黒氏とのデートだったんじゃないの?こんなとこ来ちゃダメじゃん……」
賢治は憎まれ口を叩くが、その表情が少し和らぐ。
突然自分達と距離が出来たように見えた晃が、自分達の為に血相を変えて飛んできた。
痛みと恐怖の中にありながらも、痛みと恐怖の中にあるからこそ。
そんな些細な事が嬉しく思える、そんな顔つきだった。
「デェト!?バ、ババババカタレ!そんなんじゃねえっつってんじゃん!!」
「……教えて、誰にやられたの?風間くんは一体……?」
どんな状況でも色恋沙汰を振られると弱い晃を横に押しのけて、麗華が話を引き継ぐ。
「……わっかんね。マヂ、イミフな事が起きたんだよ。宏のポケットから変なアクセが出てきて、なんか……本当に自分でも何言ってるかわかんないんだけどさ……」
「宏からなにかを吸い取って、水吸ったスポンジみたいに大きくなってさ……電気の怪人みたいなのになったんだ」
「なッ……!?」
「そんな事が……!?」
賢治の言う怪人は、晶獣で間違いない。
しかし従来と全く異なるものプロセスをへて現れたそれに、二人は動揺を隠せない。
「宏は気を失ってぶっ倒れるし、近くにいたボクは……まぁ、このザマだよ」
賢治はかろうじて意識があって歩ける状態だが、その身体は電熱によって火傷を受けていた。
「昨日晃が言ってた……なんだっけ?石の怪人?あの話にちょっと似てるかな……晃の時みたいに白い鎧が助けに来たり……なんて、ハハ……」
ボロボロの身体で無理に喋り続けた賢治は、そこまで話すと足の力を失い崩れ落ちる。
「賢治!!悪かった!もう喋んなくていいからよ!!」
「後は私達に任せてください」
救急隊員達が賢治の両肩を支え、宏と共に救急車に搬送する。
ここにいる救急隊員達もシルバーセキュリティと同じく、特防省の息がかかっている事を、車での移動中に麗華から聞かされている。
「……頼んます」
怪我人達を連れて現場を去る救急隊員達の背中に、晃は深々と頭を下げた。
「行くわよ、芽吹くん。」
「……おう」
成り行きで組んだ前回とは違う、二人一組で挑む最初の戦い。
晃は自分の両頬をバチンと叩いて気合を入れ、麗華と共にわくわくハウスへ駆け出した。
全ての灯りがシャットダウンし、薄暗い店内において場違いな程に光を放つ怪物。
それが賢治の言う電気の怪人、晶獣である事が一目でわかる。
「シュウウウウウゥゥ……」
今までの晶獣と明確に異なる点は、胴の中心に埋まる剣晶が生命のように脈動する何かに包まれている所。
そして、はっきり声だと認識できる呻きを発している所。
「その声……!?」
それは晃には馴染み深い声、宏の声によく似ていた。
意識を失い搬送された宏とは似ても似つかない怪物が、宏の声を発している。
「シュウゥ……ア……キ…ラ……?」
「どうなってやがる!?お前宏なのか!?」
「ア……ア……ガァァァァァァァ!!!」
晃の声に反応した晶獣は一瞬動揺するも、すぐに獣としての本能に支配された。
電気で作られた身体から更に電撃を発するそれが晃達に向けるのは、明らかな敵意だ。
「来るわ、準備して!戦いながら理解するしかないのよ!!」
「だろうな!どうせ考えたってわかりゃしねえんだ!!」
晃と麗華がポケットから自分の剣晶を取り出し、左腕のアーマライザーに装着。
システム音声と二人の掛け声が、開戦を告げる。
「ON-SLOT」 「FROSTYWHITE」
「ON-SLOT」 「EVERGREEN」
「セットアップ」 「セットアップ!!!」




