廊下を手を繋いで歩いてはいけません!
:2040年1月24日 モブA氏の報告
私はモブ生徒Аです。休み時間、廊下にほど近い席から、何の気なしに廊下を眺めていたら、衝撃的な光景を見てしまいました。
その珍しさを例えるとしたら、白いカラス、青いバラ。地動説、驚天動地でとにかく、衝撃的です。
廊下を手を繋いで歩いてる男女高校生が居ました。
繰り返します。廊下を手を繋いで歩いてる男女高校生が居ました。
ありえないことです。思春期の高校生が、真冬なのに暖房が利いているおかげでぬくぬくとした廊下を、男女で、手を繋いで歩くなんてことは。
現役高校生、あるいはかつて高校生だった皆さんならご存知の通り、高校生の男女の手と手の間には、海よりも深く、ヒマラヤ山脈よりも高い隔たりがあります。
異性と偶然手が触れ合っただけでドギマギしてしまうお年頃。お付き合いしているので無ければ、手を繋ぐことなんてまずありません。
もし、(たとえ付き合っていたとしても!)男女が公衆の面前で手を繋げば、その噂は千里を走り、彼らの印象は「公衆の面前で手を繋いだ人」で固定されることでしょう。
十分その特異さを共有したところで、その衝撃的な男女に話を戻します。まず、彼らの容姿について。
体格はどちらも平均的。身長は男子の方が少し高い。どちらも顔を真っ赤にしていて初々しい。どうやら常習犯では無いようです。
気づけば、眼球に埋め込まれたマイクロカメラを起動し、2人を撮影していました。バレたら不味いことになりますが、このシーンを撮影したい欲求は耐え難いものです。
某動画投稿サイトに投稿すればバズること間違いなしです。手を繋いで顔を林檎みたいに赤く染め上げたカップル。あなたは見たことないでしょ?
私はようやく平静を取り戻し、自分に突如もたらされた幸運を上位存在に感謝しました。私は今、11月19日14時10分、5時間目が終わったばかり、気だるい空気が流れるこの学校で、5本の指に入るほど幸運でしょう。
脳内シャッターを物理的に3度ほど切りました。科学の進歩は素晴らしい。とはいえ、まだ男女を発見してから数秒しか経っていません。腰を据え、じっくり観察し始めます。
ポニーテール、普段は活発そうな女子。ツンツンヘアーの、眼鏡の男子。恐らくどちらも他クラス。顔はどっちも整っている……
……
……
……
……
これ以上、直接見て得られる情報は無さそうです。私は彼らの情報を他クラスの同志に連絡します。
皆様は同志のことをご存知ないでしょうし、ことわっておきますが、私の同志というのは、他人の恋路を覗き見しようという下世話な連中ではありません。
高校生の、多感で傷つけやすい恋路を影から見守り、小さなきっかけが大きく花開くよう水をやる、そういう活動をしています。
廊下で手を繋いでいる男女が私の視界から外れようとしている時、会長から緊急の連絡が届きました。
ヤツらが勘づいた。気をつけろ
私は瞬時に自分のクラスのヤツに目を走らせます。向こうもこちらを見ていたようで、パチリと目が合いました。
ヤツのことだから、健全にどぎまぎしている男女に水をさして、
「廊下を手を繋いで歩いてはいけません!」
なんて言いかねません。ヤツは私が止めなければ。
思春期男女の恋愛を応援する党の戦いはこれからだ!