4話
「薬を?」
「はい。」
私の返事にラキュアはしばらく何かを考えているようだった。
(やっぱり、怪しまれるようなこと、言っちゃたかな、)
ラキュアを見ていると、そんな不安がよぎった。
「良いんじゃないかな。」
「え?」
さっきまで、何やら思案していた時の深刻な顔から一変、ラキュアはあっけらかんと言った。
「この国には資源が少ない。なにせ砂漠ばかりだからな。そんな土地でまかなえる薬も限られている。君がその薬を増やしてくれるのなら、民にも良いのではないかな。」
ラキュアが言うように、確かにナビルは資源が少ない。
そのかわり、他の地方ではなかなか見れない植物などもたくさんある。
ラキュアが毎朝届けているヤシの実も、その一つ。
「この国の少ない資源から薬を生み出せるのであれば、ぜひお願いしたい。」
ラキュアがそう言ってくれた事で、私はこのナビルで薬屋を開くことを許された。
「住まうところはこの王宮で良いだろう?おばあさんもずっと暮らしていたし。」
「でも、ご迷惑では?」
「他に宛もないのだろう?」
ラキュアは心配そうに言ってくれた。
「では、私も王宮で働きながら、薬屋を開きます。」
私は今までのようにお世話になるだけでは申し訳ないと感じた。
それにティアラのように私の事をよく思っていない人もいるだろうと思うと、私の存在を認めてくれるラキュアにマイナスなイメージを与えたくなかった。
私が少しでもこの国で役に立てれば、私を住まわせてくれているラキュアに恩返し出来るのではないかと考えたのだ。
「あなたがいつもしている、水場のない村へのヤシの実の配達。私が行きます。」
一番に思い付いた仕事はそれだった。
「ならば、家臣を何人か付けよう。その方が道に迷わないし、安全だ。」
ラキュアはそう言って、私の提案を受け入れてくれた。
「え?ラミ?…ラミなの?!」
その日の夜に私の部屋に訪れたのは、魔法使いの親友、タナだった。
タナは若返った私を見て、驚いていた。
「その姿、何百年ぶりに見たわ。」
私の姿にタナは呆気に取られていた。
と言うことは…。
「タナの仕業ではないのね?」
「何が?」
「私が若返った原因。」
私とタナの間に、すこしの沈黙が流れた。
「え?私が魔法をかけたと思ったの?」
私は深く頷いた。
「そんなことしてないわよ。私はラミの有給申請に行ってたんだから、魔法をかけられないでしょ?」
それもそうだと思った。
そもそも魔法と言うのは、無限ではないし、永遠でもない。
ほんの一時、夢を見せてくれるような儚い物だ。
それが故に、人は魔法にみいられるのだけれど…。
「じゃあ、なんで?」
私は首をかしげて考える。
しかし答えなど出るはずもない。
それに今の私にはその事よりも他に考えなくてはならないものがあるのだ。
「私、有給の間、ナビルで薬屋をすることになったの。」
「薬屋?」
「そう。」
「折角の休みに働くの?」
「その方が気が楽なの。」
「ラミは変わってるね。」
それを説明し出すと時間がかかるので、タナには詳しくは言わないけれど、きっとタナは私のすることに賛成してくれる。
「で、薬なんて作れるの?」
問題はそこなのだ。
私はそもそも、薬を作った事がない。
でもあのときは、毒薬の入った小瓶を偽るには、ラキュアの勘違いに乗るしかなかった。
「魔女が作れるのは、毒みたいな、怪しい物ばかりじゃない。」
「そうだけど…。」
「でもまぁ、この国で手に入るものと、ラミの森で手に入るものはきっと違うだろうし、物が違えば、何か新しい何かを生み出せるかも知れないわね。」
タナの言葉に私は「そうか!」と手を叩いた。
何と言っても魔女は薬草や昆虫、虫などの知識はあるし、調合具合を見極めるプロ。
今までは魔女の教科書に乗っ取った物しか作ってこなかったけれど、そこから得た知識と経験で何かを生み出せるかもしれない。
「まずは簡単な物から改良していくのがいいかもしれない。」
そう思い立ったら、私はすぐに机に向かっていた。
もう頭の中にしっかりと入っている様々な物の原材料や抽出の仕方などを改めて書き出して、そこから何か改良出来ないかと考え始めた。
そんな私を見てタナは、私が気付かない間に静かに帰っていった。