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3話

私は自分の顔を触ってみた。


水面に映る顔を私の手が探っている。


やはり、映っているのは私自身。


今度は体を確かめてみた。


手を見ると、おばあさんの皺だからけの手から、みずみずしい若い肌に変わっている。


「どういうこと?」


顔も体もいつの間にか、若返っている。


「手荒な真似は止めなさい。」


そう言ってラキュアは家臣たちを制し、私に手を差しのべた。


「乱暴な事をしてすまなかった。大丈夫か?」

ラキュアの態度はいつもと変わらない。

(もしかして、私だって分かってる?)

そんな期待が膨らんだ。


「君、名前は?」

そんな質問がラキュアから飛び出して、私は少し肩を落とした。

(やっぱり、分からないんだ…。)

そりゃそうだと思うし、こんな魔法でもかかった様な出来事、私だって信じられない…。


(魔法?)


私の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。


(まさか、タナ?)


私はタナの魔法に掛かっているかもしれない。

そう思った。


しかし今はそれどころではない。

私の名前…。

その時私は気付いた。

(そういえば、ここに来てからずっと名前なんて聞かれてない。)

私はラキュアに出会ってからずっと「おばあさん」と呼ばれていた。

自分の名前など名乗る必要がなかった。

(じゃあ、ほんとの名前言っても…良いよね。)


「ラミ…と申します。」

私は小さな声で答え、差し出されたラキュアの手に自分の手を重ね、立ち上がった。


ラキュアが私をじっと見ている。

あまりに見つめられ過ぎて、私は目線を反らした。


「あ、あの…。」


「君は…。」


ラキュアの表情が明るく爽快なものになり、私にこう言った。


「もしかして、おばあさんに会いに来たのかい?」


「へ?」

私はとても間の抜けた声を出したと思う。


「君は、ここに滞在しているおばあさんに少し似ているね。お孫さんかな?」


「そ、そう、ですね…。」


私は思わずそう答えてしまった。


「ちょっと待っててくれ。すぐに呼んでくる。」

ラキュアはそう言うと家臣の一人に声を掛けた。

家臣に「おばあさんの私」を連れて来るように伝えているのだ。


その様子をぼーと見ていた私だが、それは不可能なことに気付いた。

部屋に行っても「おばあさんの私」は、もういない。


「ま!待ってください!」


思わず私はそう叫んでいた。


私が急に大きな声を出したことで、ラキュアがまた不思議そうな顔で私を見返している。


「おばあさんにはもう会いました!」


そんな嘘が口から飛び出していた。


「そうか。」

ラキュアは優しく微笑んだ。


「おばあさんは、もう帰ると言って、さっき出ていきました。」


とにかく、「おばあさんの私」の存在をこの王宮から無くさなければ。

そう思った。


「そうか。寂しくなるな。」

「え?」

ラキュアの思いもよらない言葉に私は聞き返すような返事をしてしまった。

「君のおばあさんは私の仕事に興味を持ってくれていた。それが嬉しかったのだ。私の仕事に興味を持つ人はなかなかいないからね。」

ラキュアはそう言って少し寂しそうに笑った。

その表情が私の心臓をぎゅっと締め付けた。

(そんな顔しないで!)

「あなたのお仕事はとても立派です!あんなに朝早くからヤシの実を取って、遠くの村まで届けるなんて、やろうと思っても、なかなか出来ることではありません!あなたはすごい人です!」

私は思いの丈をラキュアにぶつけていた。

だって、こんなに優しくて、他人を想える人を私は知らない。

ラキュアは正しい事をしてるのに、そんな寂しい顔、してほしくない。

あなたはすごいのだと伝えたかった。


「なぜ君がその事を?」

「え?…えっ…と…。」


私は自分の思いに必死になりすぎて、辻褄の合わないことを言ってしまった。

ラキュアがヤシの実を届けていることは、今の私は知らないはずなのに…。


「そのように、おばあさんが…言って…ました。」

咄嗟に出る言葉は、とても陳腐だ。


「そうか。」


しかし私の言葉にラキュアは嬉しそうに笑った。

そんな彼を見ていると、私の心臓がドクンと鳴った。




「あぁ、そうだ。そう言えば彼女は森に住んでいるとも言っていた。君も森から来たのかい?」

「えぇ…そうですね…。」

「彼女や君はなぜ、森からこんな砂漠まで来たんだい?何かの仕事に向かう途中だったのか?」

そんな質問をされて私は焦った。

私がこの王宮に滞在している理由なんて一つしかない。


「ラキュアの事を知りたい!」

それだけ。

でもそんな事言えない。


何か彼の側にいても不自然ではない理由が欲しい。


「ラキュア!」

ふと、彼を呼ぶ声がした。


「ティアラ。来ていたのか?」


「ラキュア。その子、怪しいわ。」

突然のティアラの言葉に私の心臓は速度を上げて鳴り始めた。


「何を失礼な事を。彼女はおばあさんのお孫さんだ。怪しくなんてない。」

ラキュアが彼女をたしなめてくれる。

「それが怪しいのよ。あのおばあさん、結局ここに何をしに来ていたのか、言わなかったでしょ?そんな怪しい人の孫なんて、何かを企んでいるのよきっと。」

ティアラの目が鋭く私を射抜く。

そんな彼女に動揺して何を言ったらいいのか、分からない。

(どうしよう。)


そんな私を見て彼女はニヤリと笑った。


「ラキュア。これを見て。」

そう言った彼女の手には小さな小瓶があった。


「それは!」

私は思わず声を上げた。


「その反応、怪しいわね。この中には何が入っているのかしら?」

ティアラは勝ち誇ったように私を見た。


(あれは、部屋に置いていた、私が作った毒薬。)

私はこの王宮でお世話になるようになってから、持ってきていた毒薬を部屋の引き出しにしまっていた。

その毒薬をなぜ彼女が持っているのか。


「さっきあなたのおばあさんの部屋に寄ったのよ。そしたら、こんなものがあったの。これは何かしら?」


私を怪しんでいたティアラは隙を狙っていたんだ。

そして何か証拠になるようなものを探していた。

私が怪しいと言う証拠を。

でなければ、引き出しまで開けたりしないだろう。


「それは…。」

私は言葉が出なかった。

(どうしよう。)


「勝手に止めなさい。」

そう言ってラキュアはティアラから小瓶を取り上げた。

「ちょっと!」

「これはおばあさんの薬か何かじゃないのか?忘れていったのだとしたら薬がなかったら困るだろう?」

「く、くすり…?」

私は小瓶を渡されて、口の中で小さく呟いた。


(そうだわ!)


「こ、これは、薬です。おばあさんは薬屋です。」

とっさにそんな事を思い付いた。

「おばあさんは薬を売ってるんです。でも、おばあさんはもともと引きこもりだから、外に出て疲れたみたいで…、それで、私に手紙が来て…。代わって欲しいって。」

「君はおばあさんの代わりに来たのかい?」

「そ、そうです!だ、だから…」

ここまで来たら、もうどうにでもなれ!

「しばらくの間、この国で薬を売らせて下さい!」


私は深く深く頭を下げた。

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