2話
次の日の夜、タナは私の部屋にたくさんの服を持って現れた。
「これなんかどう?」
「う~ん。」
「じゃあ、こっちは?」
「ん~。」
はっきりしない私の態度に、タナがイライラし始める。
「何がダメなの?!」
「何って…。」
タナが持ってきてくれた服は、どれも涼しげで、ヒラヒラしてて、色合いも明るいものが多くて、今まで地味に引きこもりながら過ごしていた私には、少し抵抗があった。
「透けてる…気がする…。」
「透けてるって、あのね!これくらい普通だから!ちゃんと下に服着てるし、透けても大丈夫になってるでしょ!」
なかなか首を縦にふらない私に呆れながら、そして怒りながら言ってくるタナに負けて、私は一着を選び出した。
「これなら…いけるかな。」
「これ?!保険で仕方なく持ってきたやつじゃん!私が自信を持って勧めるやつじゃないじゃん!」
私が選んだのは、黒のロングワンピース。
襟元と袖口がレースで可愛いと思うし、何よりも透けてる感じがしないのに、暑くない。
そして上からロングのフード付きのローブを着られるのがありがたい。
私はなるべくなら、顔を出したくない。
肌だって出したくはない。
「今までの服と見た目変わらないじゃない!」
「でも、レースも付いてるし、ほら!足元なんて私の人生初のサンダルだよ。」
私はワンピースを少し持ち上げて、サンダルを見せた。
サンダルはふくらはぎまでをゴールドのリボンで結ぶ物で、可愛らしさだってある。
「ほとんどワンピースで隠れちゃうわよ!」
タナはそう言うけど、私からしたら大きく変わった。
こんなスースーする格好自体初めてなんだから、長さや色ぐらいは勘弁して欲しい。
「まぁ、いきなりは何でもキツいもんね。まぁ、仕方ないか。」
なんだかんだ、タナは納得してくれた。
いや、無理に納得しようとしてくれた…と言うべきかな…?
「折角、イメチェンのチャンスだったのに。」
タナが小さく呟くけど、聞かなかったことにしよう。
でも服を変えるだけで、私のなかでは小さな変化があった。
「私ね、このレースとか好きだよ。」
今までは服のデザインなんて考えたこともなかった。
ただ魔女らしい格好なら良いかなって思ってたから。
「なんか、女子になった気分。」
私は嬉しかった。
ほんの少しだけど、今までの自分とは違う気がした。
「ラミは女子よ、女子。」
そう言いながら、二人して笑ってしまった。
ケラケラと軽い声で楽しく。
「折角の休暇だもの。いつもとは違うことしなきゃね。今は魔女じゃないんだから。」
そうだ。
有給の間は魔女の仕事をしなくてもいい。
いろんな人間の闇から離れられるんだ。
そう思うと、私の心は軽くなった。
「有給の申請は私が届けておくから、ラミはゆっくり過ごしなよ。」
タナはそう言うと、私の書いた有給申請書を持って、ホウキに股がった。
「ごめんね。色々任せちゃって。」
「良いって。じゃあ、またね。」
私はタナが夜の空を飛んでいくのを見えなくなるまで見ていた。
タナが通った後には、キラキラの雲が出来る。
それがとても綺麗で、いつまでも見ていられる。
「ありがとう。タナ。」
親友の心遣いに感謝しながら、私の心は踊っていた。
なんだか、わくわくしていた。
そんな私に、次の日の朝、とんでもないことが起きるなんて、この時の私には想像すら出来ていなかった…。