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1.8話

「だってさ~すごいいい人なんだよ。ラキュア王子。」

タナは窓の外でホウキに股がったまま、宙にプカプカと浮き、私の話を聞いている。

「水場のない村に、朝早くにヤシの実をたくさん届けに行くんだよ。」

「うん。」

タナは相槌のような返事を返す。

「毎日だよ。」

「うん。それで?」

「その村に水を引くための工事の会議に参加して、どうすれば早く出来るのかとか、便利に使えるのかとかを真剣に考えてる。」

「そう。」

「突然の来客にも笑顔でさ。嫌な顔ひとつしないし。」

「ふぅ~ん。」

「ほんとにいい人なの。」

私が話終えると、タナは乗っていたホウキの上であぐらを掻いて座った。

そして私を見て言った。

「ねぇ、ラミ。それって、王族として当たり前の事だよ。」

「え?」

私はタナの言葉に目を丸くした。

(当たり前?あんなに優しいことが?)

「ラミはさ、仕事以外で外に出たりしないから知らないかも知れないけど、王族…と言うか、一国の主になろうとしている人は、ラミが見たように、常に自国の発展を考えなくてはいけない。それが自分達の豊かな生活に繋がるからね。それに、国は自分達だけでは発展しない。そこには常に国民の理解と力が必要なの。だから、国民に常に心を向けるし、優しくもなるのよ。」

タナの言い方は私には少し引っ掛かった。

「それじゃあ、自分の利益のために行動してるみたいじゃない。」

私は不機嫌そうに答えた。

いつも爽やかな笑みを向けてくれるラキュアが、そんな本意に考えて動いているとは思えなかったからだ。

「あと、来客の事だけど、時期国王になる人だから、周りの国も挨拶には来るでしょう?ラキュア王子にとっても、隣国との平和な付き合いは当たり前でしょ。だから、常に笑顔を絶やさない。」

タナの知識の深さはよく知っている。

いろんな場所に行き、いろんな人たちを見てきている。

そんな彼女の話は今までは、私の知らない世界を教えてくれて、とても楽しかった。

でも、今は違う。

タナはラキュアに偏見を持っているように感じた。

王族とはそう言うものと決めつけて見ていると。


私が黙り込んでいると、タナが続けた。

「珍しいね。ラミがそんなに人間に対して好意的に見てるなんて。」

そう言ってタナは微笑んだ。

「だって、ラキュア王子は違うもの。」

「違う?」

私は頷いた。

「私の元に来る人間は、憎しみとか妬みとかそう言う感情に支配されていて、そんな人間に恨まれる対象となっている人間だって、ろくなもんじゃない。でも、ラキュア王子は誰かのために真剣になれる。優しいのよ。なのに、なぜ殺して欲しいと言われなければいけないのか、分からないわ。それに…。」

「それに?」

私は、顔を上げた。

「私みたいな不気味な老人に、暫くここに居ればいいと言ってくれたの。」

私にはそれが何よりの証拠だと思った。

自国や己の事だけを考えているのなら、どこの誰とも分からない私など放って置けばいい。

なのにラキュアはそんな私に事情も聞かないし、心配もしてくれる。

たった1週間しか見てないけど、ラキュアは他の人間とは違う気がする。


私は後悔し始めていた。

あの狸親父の頼みを聞いてしまった事を。

だから、大きなため息をついてしまった。

「そんな人を殺せるの?」

私の重い気分を察したタナが言った。

私は首を横にふる。

「でも、魔女の運命には逆らえないもんね?」

タナの言葉に私は頷いた。

「断れないの?その仕事。」

「無理。一度受けてしまった仕事は断っちゃいけないの。」

「じゃあ、他の魔女にお願いしたら?代わって下さいって。こっちは南の魔女の管轄でしょ?」

「それも無理。南の魔女、今有給消化中だから。今年いっぱいは休みなの。」

「だから西の魔女のラミに依頼にきたのかな?その狸親父。」

「たぶんね。」

解決策はなく、私たちはどうにも行き詰まってしまった。

私はこのまま満月を迎え、あのラキュアに毒を盛らなくてはいけないのか…。

私の心は暗く沈んだ。


「有給か~。」

タナが呟く。

「ラミも有給取っちゃえば?」

「は?」

タナの突拍子もない意見に私は思わずタナを見返した。

「だって、いつ満月になるか分からないのに、狸親父はラミに依頼してるんでしょ?」

「まぁ…。」

私はタナの考えていることが分からなくて、曖昧に返事を返した。

「だったらさ、その依頼に期限はないわけでしょ?先延ばしにしても良いんじゃないの?」

「確かに。」

私はタナの意見に変に納得させられた。

「だから、有給取って暫くナビルでゆっくりと過ごしてみたら?そしたら、ラキュアの事をもっと知れるし、さっさと殺さなくてもすむし。」

「でも…。」

タナはそう言うけど、先延ばしにしたところで、結果は同じ。

いつかラキュアを手に掛けなければならない。

私たち魔女は、運命に逆らってはいけない身。

そう思う私の心の中を読んだように、タナが言った。

「ねぇ、ラミ。私はね、あなたが初めて自分から誰かに興味を持ったことを大切にして欲しいの。確かに魔女の運命は厳しいし、それを破れば大変な事になるのは分かってる。でもね、自分の気持ちに正直になったら、もしかしたら何かを変えられるかも知れない。だってラミはなん百年も森に引きこもって、周りに全く興味を示さなかった。それをラキュア王子は変えたのよ。なん百年間変わらなかったあなたの価値観を。それって、すごいことじゃない?そんな人に出会えるって。」

そう言ってタナは微笑む。

そんなタナの言葉に私は心を揺さぶられた。

(なん百年間も変わらなかった…。確かにそうかもしれない。)

ラキュアとの出会いが、今までの私に少しだけど変化をもたらしている。

ふと、ラキュアの爽やかな笑みが浮かんだ。

(あの笑顔を見て、彼を見てみたいと思った。知りたいと思った。だから、行動を共にした。)

そんな事、今までの私なら出来なかった。

なのになぜかラキュアは私の心を掴んで離さない。


「そうだね。それも、良いかも。」

私はいつの間にか納得していた。

「うん。そうだよ。」

なんだかタナも嬉しそうで、それがまた私の気持ちを暖かくしてくれた。


「ただ…ちょっと気になることがあるんだけど。」

急にタナが真剣な顔で私を見つめる。

「何?何か変?」

私は自分の顔や体を触り、確かめる。

「いや、そうじゃなくて、その格好、この国に馴染まないでしょ?すごい浮くよ。」

「まぁ、そうだね。」

そう言われて私は思い出した。

ラキュアと親しげにしていた、あの勝ち気な少女、ティアラの言葉を。


<誰?このおばあさん。>


<だって、見たことない服着てるし>


「確かに、浮いてる。」

ティアラの、態度を思い出し、余計に納得してしまった。

「でしょ?どうせなら、郷に入っては郷に従えよ。」

そう言ってタナはニヤリと笑った。

その表情から、タナが何かを企んでいるのが、長年の付き合いの私にはなんとなく分かってしまった。

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