9話
「ちょっと!さっきから何度も何度もノックしてるのに!居るんならさっさと出てきなさいよ!」
部屋の扉を開けた瞬間、眼前にティアラの怒った顔があった。
私は彼女の勢いに思わず、のけぞってしまった。
「ごめんなさい。気づくのが遅くなってしまって。」
「まあ、いいわ。それよりも、あなたに聞きたいことがあるんだけど。」
憤然とした態度のティアラが、可愛らしい唇を尖らせている。
「聞きたいこと?」
「ラキュアの事よ。」
そう言うティアラの表情が曇る。
「あなた、ラキュアとどういう関係なの。」
「え?」
思いもよらない問いかけに、思わず間の抜けた声が出た。
「あなた、ギュレンを同行させたらしいじゃない。どういう事なの?」
「それは、ラキュア様が何かあってはいけないと…。」
「だから!なんであなたがそこまでラキュアに心配されるのよ!」
ティアラが顔を赤くして私に迫る。
その時、私は気付いてしまった。
ティアラの綺麗な瞳から、溢れそうな雫の存在を。
そして、その雫はまるで宝石のような輝きを放ちながら、シルクのような滑らかなティアラの頬をポロポロと滑り落ちていく。
「あなたが現れてからラキュアはおかしいわ!私の事よりあなたを優先してる!どうしてよ!」
そう言うとティアラは顔を両手で覆いながら、肩を震わせ泣き出した。
そんな切なさに震えるティアラは今まで私が感じたことのない美しさに溢れていた。
それはきっと純真なティアラの心がそうさせるのだ。
魔女の私には相応しくないものを、目の前のティアラは持っている。
湿っぽい森のなかで、人を殺めるための毒薬を作っていた私には得られないもの。
ひたすらに、ラキュアを愛する心。
そんなティアラの純粋な気持ちが、私の中の琴線に触れた。
沸々と沸き上がる、ラキュアへの苛立ち。
こんなにも素敵な感情を持ったティアラを、ラキュアはなぜ悲しませるのか。
私はぎゅっと、両手を握りしめた。
「ティアラ!行こう!」
「えっ?」
驚きの表情を浮かべたティアラの右手を引っ張り、私は自分の部屋を後にした。