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6.8話

井戸のなかは奥へ行けば行くほど暗くなる。

下から風が吹いていて、寒さも感じる。

私は慎重にはしごを降りた。


「あれ?」

はしごが途中で終わってる。

下を見ると小川のように水が流れている。

上からでも小川の底にきれいな砂があるのが分かる。

(そんなに深くなさそう。)

私ははしごから手を離し、小川の中にジャンプした。

バチャンという音と軽い水飛沫。

小川の水は私の足首までしかなかった。


私の足元に小さな光の輪。

その光をたどって上を見上げると、井戸の入り口がずいぶんと小さく見える。

そしてあることに気づいた。

「この井戸、浮いてるの?」

だって、井戸の石組が私の頭上で終わっている。

あとは木の根っこが至るところこら張り巡らされている。

薄暗くてよく見えないけど、森の中の木の根っこがここに延びてきているみたいに感じた。

ある意味神秘的な雰囲気。

そして視線を前に戻すと、木の根っこの向こうから光が見えた。

私はこの先にはまだ道があると思えて、張り巡らされている根っこを掻き分けてみた。

「まだ続いてる。」

この井戸はどこかに繋がっているのかもしれない。

そう思い、私は掻き分けた先に進んでみた。


木の根っこを抜けるとそこには、洞窟のような空間があった。

頭上には相変わらず木の根っこが縦横無尽に幾つも走っている。

そして小川には何かキラキラした物が見える。

私はしゃがんで小川に手を入れてみた。

「砂の中に…金?」

砂をすくいあげると、手に金色の粒が残る。

その金色はもともときれいな小川の水をより美しく見せている。

私はその金色がどこまで続くのか見てみたくなり、小川の水が向かう方へと歩みを進めた。


歩くうち、だんだんと頭上の根っこたちの隙間から光が見え始めた。

それは日の光ではなく、私が歩く小川の金の粒が反射して、天井を彩っていた。


だんだんと視界が開け、明るい場所にたどり着いた。


「うわぁ。」


私は感嘆の声を上げていた。


たくさんの緑と木々。

爽やかな風。

下からは黄金の光。


私はいつの間にか、森に囲まれた湖に立っていた。


その景色はあの井戸からは想像もしない美しさと、雄大さ。


(でも、ここは地下なのよね?)


上を見上げると木々が風に揺れているが、空らしき物が見えず、ただ葉っぱたちが優雅に踊る姿があるのみ。


しかし私の足元はキラキラと黄金の光を放っている。

でも目が眩むほどではなく、辺りを美しく見せる光だ。

日の光が届いていないようなのに、その湖の光が日の光にも匹敵していた。


(井戸の底から見えていた光は、ここの光だったのね。)


湖は相変わらず浅く、私の足首を濡らしている。

私はしゃがんで砂を確かめた。

すると先程の洞窟の中よりも、たくさんの金の粒が砂と共に手のひらにすくいあげられた。

(なんてきれいな…。)

私はしばらくその金の粒に見とれていた。


「お嬢さん。」


「え?」


またお嬢さんと呼び掛けられた。


私は反射的に前を向いた。


すると光に包まれた、白色のドレスをまとった1人の女性が、緑のなかに佇んでいた。


(きれいな女性(ひと))


女性が着ているドレスはヒラヒラと気持ち良さそうに揺れている。

(あれは、シルクかしら…。)


彼女の着ているドレスのたなびきから、私は昨夜に見た露天の店主が見せてくれたシルクの生地を思い出していた。


白色がキラキラと光り、風にさらわれるドレスはさらさらと彼女の肌をなめていく。


「この場所まで来れたということは、あなたは人間ではないわね。お嬢さん。」


目の前の美しい女性が私にそう告げた。

彼女の表情を見た。

口元はにこやかに微笑んでいるが、目が…。


「あなたは、目が見えないの?」


彼女の瞳は長い睫で閉じられている。


「見えていないのに、なぜ私の存在が分かるの?」


初めて会う人なのに、なぜか話し掛けてしまう。

いつもの私なら動揺してうまく話せなくなるのに…。


何か…近いものを感じる…。


「あなたも、人間ではない?」


私がそう言うと彼女は顎に手を当てて、微笑んだ。


「どうやら私たちは時代を超えて、出会ってしまったようね。」


「どういうこと?」


「お嬢さん。もうここへ来てはダメよ。そして、固く口を閉ざして、誰にも教えないで。」


「さっき、私にここは危険って教えてくれたのはあなたなの?あれはどういう意味だったの?来てはダメって、なぜ?」

私は自分でも不思議なほどに、矢継ぎ早に話し掛けていた。

(分からない事が多すぎる。ここはどこなの?彼女は誰?)


「危険なのは、あの巨木の場所。」


「私が眠ってしまっていた?」


わたしがそう言うと彼女は頷いた。


「あの場所は眠った者を襲う魔獣が現れる。きっと村の人間に聞けば分かるわ。」


彼女の声は真剣そのもの。


「だから、私を起こしてくれたの?」


「ええ。…でも、ここへはもう来てはダメよ。あの場所で眠ってもいけない。」


彼女がそう言うと、辺りにまた風が吹いた。

目の前の彼女の長くて美しい金髪が、シルクの糸の様に滑らかに揺れた。

すると彼女は片手を天に向けた。


「ひとつだけ、お願いがあるの。」


「なに?」


「この先また私に似た人と出会っても、今日の事を口にしてはダメよ。その時はまた<初めまして>」


「え?」


私が疑問を口にした時、彼女の白くて細い腕が振り下ろされた。


すると湖の底が抜け、私は暗くて寒い湖の中へと吸い込まれていった。

体がどんどん下に吸い込まれていくのに、なぜが恐ろしさは感じない。

むしろ私の周りをキラキラと黄金の光が蛍のように見えて安心感を覚えた。


(彼女は一体…。)


私の中で疑問がぬぐいされないまま、私はまた意識を手離していた。

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