6.5話
昨日の夜、街へ出ていて、眠るのが少し遅くなった事を私はだんだんと後悔し始めていた。
「ラミさん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です…。」
ヤシの実を何度も往復して運んでいるうち、寝不足も相まって、頭が痛くなってきてしまった。
こまめにヤシの実から水分を取っているけど、体力はどんどん失われていく。
そんな私をみかねて、家臣の人たちが心配してくれていた。
(こ、ここで、ちゃんと仕事をしなきゃ。)
私は自分が普段からラキュアに迷惑を掛けていることが引っ掛かり、なんとかやり遂げたいという思いにかられていた。
しかし足元がふらついてくる。
(夜に出掛けなきゃ良かった…。)
そんな後悔も。
「ラミさん、あちらに木陰がありますから、少し休んで下さい。ここで倒れたら、明日から手伝えなくなりますよ。」
家臣の1人にそう言われてしまう。
でも、本当の事だ。
ここで倒れたら、ラキュアは私を心配して、手伝わせてくれないと思う。
それでは、恩返しどころではない。
「すみません。…少しだけ…。」
そう言って私はふらふらと倉庫の裏手にある木陰に身を寄せた。
その場所はこの村で唯一の巨木が生えている。
木には青々とした葉っぱが生えていて、とても水場のない村とは思えない。
不思議な光景ではあるけれど、私も何度も村に足を運ぶうち、この木の存在にも慣れてしまっていた。
木陰で休んでいると、暑いはずの砂漠の風が少しだけ涼やかに感じる。
「気持ち…いいな…。」
思いの外流れてくる心地の良い風に身を任せていると、ふいに睡魔が襲ってきた。
(ちょっとだけ…。)
そんな気持ちになり、私は瞼を閉じた。
夢の中だろうけど、誰かが私を呼んでいる。
「お嬢さん。」
誰かは分からないけど、とても優しく穏やかな女の人の声。
お嬢さんと呼ばれたのは何百年ぶりだろう。
(そうだ。私は今、若返っていたんだ。なぜかは分からないけど…。)
「お嬢さん。ここは危険よ。早く目を覚まして。」
「え?」
優しい音色の女の人声から出た物騒な言葉に、私は目を開けた。
しかし私の周りには誰もいない。
(夢?さっきの声は一体…。)
そんな事を考えていると、後ろから葉っぱ同士が擦れ合う音が聞こえてきた。
「え?」
振り返ると、私の背中には巨木があったはずが、石で形を整えられた井戸のような物があった。
私はその井戸の石に背を預けていたのだ。
(なんで?…これも夢?)
周りを落ち着いて見渡してみると、そこにはたくさんの緑が生い茂り、小鳥のさえずりさえも聞こえてくる森の中。
どこからか水が流れる音さえも聞こえてくる。
私はしばらく放心状態。
改めて周りを見た。
砂漠もない。
ヤシの実を保管するための倉庫もない。
さっきまでの場所とは全く違うところにいる。
(やっぱり、夢の中ね。私はまだ眠ってるんだわ。)
そう思うと安心することができた。
私の耳に先程から届いている水の流れる音。
それが気になって私は音のする方を探して、耳を澄ませてみた。
するとその音は案外近くにあった。
水の流れる音は私の後ろから聞こえる。
「井戸?」
音の場所に確信を持った私は後ろにある井戸を覗いてみた。
「はしごがある。」
井戸の内部には奥底まで続く場所まで、はしごが延びているよう。
水の音はその井戸の深くから聞こえている気がする。
(行ってみようかな?)
私は夢の中ならば大丈夫と感じ、そのはしごを降りてみることにした。