姫若子(ひめわこ)
土佐岡豊城
物見矢倉の上でぼんやりと空を眺めている少年がいた。
肌は透き通るように白く、白い襦袢を着流している。
風になびく黒髪は美しく、女人のようであった。
雲はどこに飛んでいくんだろうなあ~
わたしは、どこに飛んでいくんだろう~
べんべんべんべんべん
「さら~ そうじゅの花の色~ 諸行無常の響きあり~ 」
べべんべんべんべんべん
城壁の外で、琵琶法師が歌っている。
あのしゃがれた声が心に染みるなあ。
華やかでもあり、物悲しくもある。
それが、無常と言うものなのだろうか?
「元親さま~ 日も暮れて参ります。屋敷の中にお入りください」
「・・・」
家来の言葉が届かぬように、元親はぼんやりと雲を眺めている。
(全く、いつものようにかついでいくか)
家来は、元親を肩車し屋敷の方へ向かう。
元親は、担がれた事も気づかないようにただ雲を眺めつづけていた。
天守閣から様子を見ていた国親は、ため息をつく。
(わが子ながら、先が思いやられる。あやつには、長宗我部一門を束ねる事が出来るまい。邪那に食い殺されるのが関の山じゃな。廃嫡も考えにゃならんかのう
)
困った顔で、隣にいる妻の方を見る。
「大丈夫でございますよ。元親は良い城主になると思いますよ」
「そうかの~ 今のあやつを見てると、餓鬼にでも食われてしまいそうで心配なのじゃ」
「では、神猿塾に入れてはどうですか? 」
「神猿塾? 」
「ええ、実家の者からきいたのですが、なんでも、もののけ退治をする神猿を育てる塾が、堺に新しくてきるそうですよ」
「ほう~、神猿塾か」
国親は、水平線に隠れる太陽を眺めながら、我が子の将来に思いをはせていた。はたからみれば、ぼうっと水平線を眺めているようであった。
(ほんに、親子ですこと)