犬千代
俺の名は、前田犬千代。
今日が初陣だ。
俺の一族は、代々火を操る能を持った者が生まれる家系だ。
その中でも、俺様は最強の素質を持っている。
炎を纏って生まれたらしく、母ちゃんの大事なとこ燃やしそうになったらしい。
槍の腕も最強!
俺の朱槍が火を吐くぜ!
「おら、おら、おら~! 大将首とってやんぞ~! 」
「・・・」
「な、なんじゃこりゃ~ 」
戦は既に終わっており、戦場には骸が転がっているだけであった。
「わ、若。我らのお役目は、後焼きですので」
後焼きとは、戦の後の死体を焼きもののけにならないようにするお役目のことである。
前田家は、代々弱かった。
火を操る能を買われ後焼きの役目によって織田家に奉公していたのだ。
犬千代のように、槍働きの出来そうな者はいなかったのである。
「次は、一番槍をぶちこんじゃる! 」
くそう、腹立つ。こんなお役目なぞあっちゅうまに終わらせちゃるわいな。
「おらおらおら~! 」
槍を頭の上で回転させながら叫んでいる。
「火炎風車! 」
槍の先から炎が発射され、辺り一面に火の雨を降らす。
あっという間に、死体の山が黒焦げになっていく。
「おり、おら~! どんなもんだいい~! 」
犬千代の能は凄まじかった。
戦場は、火の海と化した。
そして、近くの林に引火し、山火事を起こした。
織田の殿様が、狩りに使っている大事な山林でる。
「・・・や、ヤバイ」
殿に大目玉を食らうのは当たり前のことだが、その前に柴田のおじきに殺されちまう。
どうにかせねば。
途方にくれる犬千代であったが、ただ、燃え尽きるのを眺める事しか出来なかった。
その日、犬千代は出奔した。