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出立

「父ちゃん大変だ」


 子供が家の中に飛び込んでくる。

 みすぼらしい木でてきた小屋である。


「どうした? 」


 藁をなう手をとめ男はふりかえる。


「兄さんがでてっちまった」


 子供は男にすりよる。


「まあ、遅かれ速かれ家を出ていくと思っとったっが・・・」


 男は目を閉じため息をつく。


「母ちゃんは、知ってるのか? 」

 

 子供に視線を向け男がつふやく。


「別れが辛いから俺から言っておけって・・・」


「何かいっとったか? 」


「ふ、ふんどし祝いで大人になれなかったから、偉くなって見返してやるって」



「・・・あほうが」



 男はため息をつき、また藁をない始めた。


 峠道を一人の少年が歩いている。

 顔中汗でびっしょり濡れている。いや、涙かもしれない。

 背中には、瓢箪を五つふらさげている。


「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。

なにが、ふんどし祝いじゃ~ 」

 

 少年は村での出来事を思い出していた。

 ふんどし祝いとは数えで13歳になった男子が思いを寄せた女子や村の寡婦などのところに夜這いをして男になる村の行事である。

 少年は他の男たちと同じように行事に参加したが、一人も彼を向かい入れてくれる女子がいなかった。いや、拒絶されていた。

 明るく人のよい人柄であったが、小柄で猿顔の為


「猿」


と呼ばれていた。

 妙な愛嬌のある少年であった為、大人達は彼のいたずらをおおめに見ていたが、気に入った女子がいればいたずらをするという愛情表現をしていた為村の若い女子達からは全く人気がなかった。

 自分が持っていない膨らんだ胸や大事なところを触ろうとしたりキスを迫ったりと本能のおもむくままに行動していた為である。

 最近は、ふんどし祝いまで待てと大人達に言いくるめられてなりをひそめていたが、結果はご覧の通りである。


「この村にあんたとしたがる女はおらんよ。

どしてもしたかったら、村を出ていくんね」



 何軒か夜這いを失敗して最後に行った寡婦にそう言われた。


 もっともな話である。エロがきで有名な彼といたした事が広まったら、相手の女子はこの小さな村の笑い者になってしまう。


 以上のようないきさつで彼は峠道を歩いている。


「竹阿弥の秘蔵の酒売っぱらって路銀稼いで、どっかの足軽にでもなるきゃあ」

 

 竹阿弥とは、先程の縄をなっていた男の事である。

 農耕を主体とする村にあって、書物を所有するなど多少の教養のある男で、彼のつくる酒はうまいと評判であった。

 少年は、彼が七歳の時に後妻に入った母親の連れ子である。


「餞別がわりだ、奴に文句はいわせん。

母ちゃんには申し訳ねえが、偉くなって迎えにきちゃる! 

みたことねえような綺麗な嫁さん見つけてやっかんね~ 」

 

 握った右拳を太陽にかざし、晴れ渡った空をにらみつける。


 彼の前は『日吉(ひよし)


 天下をとるかも知れない男!

 





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