第七話;準備
そして、一転してここは柚子の家の大広間。
さすが、金持ちの家…なんていうかでかい。
天井にはシャンデリアがぶら下がっていて、そこらじゅうがキラキラと輝いている。
しかも、執事やメイドがいる所にやたらと気になる僕。
だけど、もっと気になるのは放し飼いにしてあるあのタマ。
「さぁ、裕也ここだ。……どうしたのだ??」
「いや…こんなに綺麗なのになんかタマだけが妙に浮いているから…」
「ははは。あーおもしろいなぁ(棒読み)」
コイツ…僕を馬鹿にしてるだろ…。
あー、はいはい。どうせウチの家は普通ですよ。特に親なんかが。
父親は決まった時間─多分、朝の七時ぐらい─に出てって夜の八時くらいに帰ってくる規則正しい生活。職業はごく普通の会社に働くごく普通の会社員だ。課長でも社長でもない。
母親はいつも家でグータラ…。夜はコンビニのパートだ。
普通すぎて柚子なんて腐ってしまえば良いのに、と思う。
詳しく言うと金持ち全員くたばって死ねば良いんだ。
「そうか??そんな裕也の母上と父上も好きだが…」
「さいですか。僕はお前両親が羨ましいよ」
柚子の両親は基本的、甘い。
柚子が欲しいものは何でもあげるし、柚子が望めばなんだってする。
簡単に言うと親ばかだ。
そんな両親が欲しかった。
強いて言うなら僕の家は貧乏だから、欲しいものは自分で買えと言われる。
最後に親から物を買ってもらったのはいつだっただろう…。
高校生にもなるとバイトとかが出来るようになるが、やり始めると柚子がいつも邪魔をする。
客としてきて、店員や店長にちょっかいを出したり、一緒に働いて皿を割ったりするなんて事も僕が怒られる。さすがに、金持ちの子は怒れないのであろう。
でも、なんで僕が柚子の尻拭いにならなければならないのだ。
僕は柚子の保護者では無いのに…。
そう思うと急に泣けてきた…。切なくなった。
「なに、ないているのだ?馬鹿か、馬鹿なのか?」
「半分はお前のせいだっつーの」
「思い当たる節がありすぎて話にならん」
「自覚はあんのかよッ!!」
そうだった。自覚があるからこそコイツは最悪なんだった…。
自覚がなしでも最悪だけどな。許される領域をとっくに超えているから。
そういえば、この前もどこかでこんなこと言った気が…。
「裕也、そういえば最近ツッコミに手を抜きすぎじゃないか??」
「ぁん?……まぁ、注意しても止めないからな、お前は」
「いいじゃないか、心を読むぐらい。別に変なこと考えているわけではあるまい」
「そうだな、お前のせいで悩む事もろくに出来なくなったよ」
そして、また大きくため息を吐く。
目の前にあるおもっ苦しそうな扉を目の前に繰り広げられる。
本当に漫才をやっている気分だ。
「えー…夫婦漫才?」
「僕と柚子はいつから夫婦になったんだよ」
「生まれたときから☆」
「そんな設定、ありがたくも何にもねーわッ!!」
「う・そ・つ・け☆」
嘘じゃないんだけど…。
なんで、柚子の旦那として嬉しく思わなければいけないんだろう…。
僕達はとりあえず部屋に入ることにした。
実際に部屋の前で繰り広げられる僕達ははたから見ても変な人たちだっただろう。柚子が心を読むのだからとくにだ。
部屋に入ると、そこには見覚えのある一人の男子が…。
「よっ、裕也。先にお邪魔してるぜ」
「り、竜??」
やはり、僕の見る目は確かだった。
竜は馬鹿だ。柚子並みに馬鹿だ。
なんで、柚子の家に当然のように居座る…。
家に居るのはまだ、よしとしよう。僕は関係ないから。
しかし、何故に自分の家でもないのに柚子の家のメイドさん(家政婦さんなのかな)をこき使うんだ??
突然来たならそんなの分からないだろうが、それが誰でも見たらすぐ分かるだんぁ…。
何処の南国の王様気取ってんのコイツ。
竜の周りに四人ぐらいのメイドさんが囲み、うちわで扇いでもらったり肩を叩いてもあっていたり…一言で言うとムカつく。
しかも、柚子の事好きな奴がそんな事してたら幻滅食らうだろ…。
「んふふ…裕也よ、私を甘く見てもらっては困る」
「お前は俺を困らせてるんだからたまには自分も困れよ…」
「柚子はな、裕也が裸で柚子に告白してきても幻滅はしないぞ!!」
「いや、しろよッ!!」
そこまでいくと、変質者が出た時にどう対処するんだよ。
「えー…ホラ、柚子って嫌われるタイプじゃん??」
「まぁ、性格が性格だからな」
頭良いし、容姿が綺麗だからひがむ人はもちろんの事いる。
しかも、柚子の場合は八方美人だし…。
「え?八方美人って何??四方八方から見ても美人ってこと??」
「絶対分かってるだろ…」
「うん」
肯定が早過ぎだ。
そんな早すぎても僕がどうして良いんだよ…。
「まあ、話を戻すけどさぁ」
「どうぞ、戻してください」
っていうか、柚子がそんな事いうなんて珍しいな。
今日は雨か、なんて思ってしまう。
「んでさぁ、柚子の事を好きな人は少し変わってるじゃん??それか、柚子を狙ってる人」
「若干のナルシ発言が入ってる気がするんだが…まあ、さっきのが残ってるから許してやるよ」
「たとえば、裕也みたいな人はさー柚子の事大好きじゃん??」
「ほぉ…僕の何処が柚子大好きか教えてもらおうかぁ…」
僕と関わるな。むしろ、他人で居てくれ。
幼馴染じゃなかったら、コイツを殴りとおすぞ…。
「それは無理なことだぞ。柚子は心を読めるのだから」
「うをっ!?また読んだな」
「だって、読んでくれと顔に書いてあったぞ??」
「書いてねーよ」
「そう言うと思ってさっき書いておいた」
その発言を聞くやいなや自分の顔へと触れて確かめてみる。
すると、急にニヤニヤと柚子が笑い出した。
……はめられた。
それだけが虚しく僕の心に響いた。
「おい、裕也。俺も混ぜてくれよー。一人だけ柚子さんとウッハッハしようだなんて…そうはいかねーぜ」
「なんだよ、そのウッハッハって」
「そうだよ、混ぜてあげてよッ」
なんで、柚子は急に『女の子』になるんだよ…。
竜も入ってくると、突っ込めるものも突っ込めなくなる。
つか、二人いっきにボケられるのが一番困る。
「んで、竜はなんでここに居るんだよ」
「よくぞ聞いてくれた!!」
あ、地雷踏んじゃった…。
「それが、柚子さんに呼ばれたんだよ…。分かるか、この俺の気持ちが!!!」
「わからねーし、わかりたくもない」
「本当はわかるくせにぃー」
「部屋荒らされたのにどうやったらそんな気持ちが出て来るんだよ」
「「気合だッ!!!」」
そこで、言葉をハモられても…。
と、ギィと短く音がしたかと思うと部屋に人が入ってきた。
見覚えのある人…柚子のお父さんだった。
「お集まりの方々(三人だけど)今日はバーチャルゲームを楽しんできてくれたまえ」
ようやく、本編が始まろうとしていた…。