第六話;休日
さてさて、時は変わって私腹の土曜日になった。
学校もないし、柚子もいないし…一番好きな日────なはず。
「何をしている、裕也。私は客だぞ!!」
「いつからお前を客と認めた。完璧な不法侵入者だぞ…」
いつものように柚子はそこにいる。
いつからと聞かれたら答えは『知らん』だ。
当たり前のように居る。
これは事実。
そういえば、あのあと先生たちは夜が明けるまで(正確には一日中だな)学校に居たらしい。
みんなが登校する時間になったとき僕たちのクラスにまだ先生たちが居たところには僕も目からウロコガ落ちた。
「裕也よ…嘘を教えちゃいかんなぁ。うん、嘘をおしえちゃいかんなぁ」
「何で二回言うんだよ…。嘘なんて言ってないだろ」
「目からウロコなんか落ちてないだろ!!」
あれ??なんで怒られたの、僕…。
っていうか、実際的に目からウロコが落ちたら怖いんだけど…。
「そういうのは『目からコンタクトが落ちる』って言うんだ!!!」
「リアルすぎて例えになっとらんわッ!!」
しかも、僕コンタクトしてないし。
それに、突っ込んではないけどちゃっかり心の中読んだよね?
「んで、何しに来たんだよ」
「荒らしに」
「帰れ」
本当に何しに来たんだよ、コイツ…。
「やだなぁ、ジョークにきまってるだろう」
「お前が言うとなんでも現実味が湧くんだよ…」
「そんなことするわけ無いだろ??…よっこらせ…」
バサバサ
僕の机の上にのっていた教科書や参考書、本やプリントなどが柚子の手でぶちまけられる。
「って!!!!さっそくなにしてんだよ!!やりながら言っても、説得力ねーよ!」
「これは『荒らしてる』んじゃない。部屋を『汚くしてる』んだ」
「ある意味、一緒じゃねぇか!」
「違う!!こう…ビヨンセ?ニュヨンセ??」
「……ニュアンス??」
「──が違うんだよ」
僕に言わせてどうする…。
しかも、始まりはビヨンセかよ。ニュヨンセって韓国人みたいな名前だな、オイ。
まったく、ユカイな話だぜ…。
「本当だな…」
「お前のせいだよ…。つか、なんで僕は慰められてるんだ??」
「さぁ??それより、裕也の部屋はこうも汚いのか??」
「お前のせいだろうが!!」
普段は普通に綺麗なんだが…。
床一面に広がったプリントや教科書類などのせいで汚くなっちまった。
しかし、これでとまる柚子ではなかった。
クローゼットの引き出しを全部引っ張り出し、服を散らかす。
「おま…本当にやめろよッ!!」
「何を言う…まだ、途中ではないか!!」
「途中だから止めてんだよ!」
「裕也はいつも言うではないか…。『何でも良いからお前は物事を最後までやり遂げてみろ』…と」
「それは、お前がなんでもかんでも途中で投げ出すからだろ!!」
「中途半端じゃないぞ。ちゃんとどれも出来るぞ」
「…クッ…」
柚子はある意味、神様に愛されているから才能には恵まれている。
何にチャレンジしてもできる。あ、突っ込みみたいな性格的な問題があるのは別だが。
皆が言うには、『容姿端麗』で『頭脳明晰』だ。
俺から見れば『人格崩壊』と『馬鹿野郎』だ。
柚子には後者の方がピッタリだとは思わないか??
「ひどいな…裕也は私のことをそういう風にみていたなんてな」
「あぁ。ピッタリだとは思うがな」
もう心を読むことに関しては突っ込む事を止めてみた。
「裕也のを作ってみたぞ」
「探してみたじゃなくて、作ってみたってところに若干、不満があるんだがな…。言ってみろ」
そして、一呼吸置いて柚子は言った。
「そうだなぁ…『影薄漫才』と『変体親父』ってのはどうだ?」
「ちょっとまてぇいッ!!!許す、最初のは許す。影が薄いのは本当だからだ!…しかしッ!!その後のは聞き捨てならんぞ!!なんだ、変体親父って!!!!!!!!」
「ピッタリだろう??」
「何処がだよ!!」
センス云々ではなく、変体じゃない。親父じゃない。まだ、心も身体も子供だ。
決して、変体ではない。命を懸けて良い!!
「そうか、じゃあ死ね…」
「なんで!?本当の事を言ってるのに死ななきゃいけない理由が見当たらないよ!?」
まず、柚子の憐れむ目が気になるんだけど…。
「じゃあ、遠慮なしに…そりゃ」
「へ??…ちょッ!!!何で、カッターなんか僕に振り下ろしてんのさ!」
「大丈夫…頭と心臓は狙わない」
「いや、殺さない意味では通じるけど、今の状況だとジワジワと殺すみたいな言い方に聞こえるんだけど…ッ!?」
「……そ、そんなことないよ☆」
「まてぇ!!その『☆』はなんだ、『☆』わッ!!!」
「柚子が誤魔化す時に良く使う方法だ」
「知ってるわ!!さっきの僕の言った事は本当だったのか??肯定したんだな!?」
「うるさいなぁ…裕也なんか死んでも誰も悲しまないよ」
「…………」
べ、別に泣いてなんかいないんだからな!!
疲れたから、目から汗が出てきたんだ…。
「…ッ……お、前は何しに…来た、んだよ──ッ」
柚子の振り下ろすカッターを受け止めながら必死の抵抗を見せる僕。
なんか、凄く馬鹿っぽい…。
「あ、今日は裕也を誘いにきたんだった」
「先に言えぇぇえぇぇええぇぇぇぇえぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
今まだしてきたことが全て無駄になったときの脱力感を皆は知ってるだろうか。
そう、今はまさにそんな感じ。
部屋は汚されるし、殺されそうになるし…もう最悪。
それなのに、さらに僕を誘うだなんて嫌な事があるに決まってる。
「ほら、ゲーセンに新しくバーチャルゲームが出たじゃん??」
「あぁ…思い込みで変な世界に行くやつ…。でも、あれ高いじゃん」
たしか、一回の料金が10万ぐらいだった気がする。
それに、人気だから予約は1年先ぐらいじゃないと出来ないとか。
ゲームは別の個室にあるらしい。見たことはないから、確証は得てない。
「ふふふ…それが、出来るのだよ…。柚子にしてみれば赤子の首を捻るように…」
「赤子の首は捻っちゃダメだって!死ぬよ、赤子が死ぬ!」
そういえば、柚子の家はお金持ちだった。
たしかに、そんなお金持ちが頼めば逆にゲーセンも嬉しいだろう。
「そうなんだ。家にそのゲームの本体が置いてあってな…」
「へーー、すげーじゃん」
「だから、誘いに来たのだ」
うん、それは先に言ってほしかった。