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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第94話 静かな終わり

ここまで来ていただきありがとうございます。

 剣は黒き姫を斬る。その一閃は全てを斬るものではない、この世界とは別の何か、ローズ体に憑りつくものだけを斬る。


 ローズは血を吹いて倒れる。だが、ローズに傷はなかった。まるでそこにない別の誰かを斬ったかのようだった。


 そして、騎士は剣を鞘に収めるとすぐにレンのもとに走る。


 レンは重傷だ。剣を傷から抜いた時点で大量の血が流れだしていた。


「レン……」


 騎士はすぐに服の一部を裂き始めた。この騎士の服装にはいくつかの術式が掛けられている。決して強い効果が得られるものではないが、その中には軽い止血の効果もあったはずだ。


 それを包帯のように傷口に宛がう。だが、そんな効果は焼け石に水、じわじわと血が滲みだす。


「クソッ……死ぬなレン!」


 レンに意識はなかった。呼吸も鼓動も少しずつ弱まっていく。


 騎士には傷を治す力はない。このままでは……


 その時だった。風が吹いた。レンの直ぐ側、騎士の向かいに黒い姫がいた。


 まだ、生きていたのか……? 驚愕だった。街中と言うことで威力を抑えていたが、確かに一刀両断したはず……。しかし、弱っているのか先までの熱波は無くなっていた。


「私の……私の英……雄……お願死なないで…………」


 黒き姫は涙を流しながら、愛おしそうにレンの頬に触れる。


 騎士はそれをただ見ていた。本来ならば斬るべきだろう。覚悟を決めて託したレンのために。だけど――――


 黒き姫が何か魔法を放つ。レンが暖かな炎に包まれる。今まで彼女が使った黒い火ではない。赤く、紅く、朱い色をしていた。


 そして、レンの傷は綺麗に無くなっていた。


「私の英雄……いつか……いつか必ず……救って……」


 そう言い終わると黒い姫はレンに覆いかぶさるように倒れる。


 ローズから黒い色が抜けていく。元の美しい紅い髪に戻る。


 ローズから抜けた黒い塊、黒い龍、黒い濁流は最後に騎士を睨みつける。


「偽りの英雄よ、呪われし血を引くものよ、今はその勝利を喜ぶがいい。だが、次こそは――――」


 何かを言い終える前にその塊は騎士の剣に塵と化す。




 騎士は静かに、横たわる二人を見つめる。


「レン、ローズを頼むよ……」


 その声は意識のない二人には届かない。

読んでいただきありがとうございました。


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