第93話 覚悟の見せ時
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黒き姫は俺を一瞥すると瞳を細める。
「あなたはまだこいつを友と思っているのか……? 理解に苦しむ。ああして裏切られておいて、何故助けようとするのだ?」
その声は同情するかのような声色だが、決して冷酷なものではなかった。まるで、そんなところも認めているかのような物言いだった。
「それは、何か理由があったからじゃないのか? 」
俺はローズが何を言っているのかを分かってはいない。でも、答えないといけないと思った。一言を発するだけで喉が、声が焼ける。
「友、仲間。その信頼を裏切るほど罪深いことはない! 黒き英雄よ、優しき英雄よ、……もう休め。お前はもう役目を果たしたのだ」
黒き姫は騎士を締め上げている反対の掌を向ける。そして――――
足が動かない。体が重い。これは……重力か……?。立っていられない。一番楽な体制を求める体は崩れ落ちる。地面に潰される。騎士は簡単に地面を陥没させていたが、それほど柔らかい地面ではない。……でも、指一本動かせないわけではない。あんな優しい顔しといてこんなことしてくれるなんて……。
だから、今思いついた。この状況を打開する諸刃の剣の策が。覚悟なんて、ここに来る時に決めている。
騎士は今は多分動けない。そして、ローズは俺が動けないと思っているはず。
この距離、あいつならきっと……。今、多少なりローズの、いや中身の意識が少しこちらにある。
ウィルが命張ってるんだ、俺も張らなきゃ男じゃないよな。いや、騎士はそれが仕事なのかもしれないがそんなことはどうでもいい。
剣を掴む。剣は今までと同じ重さのような気がする。俺の周りの地面が何一つ変わってないところも見ると、重力は俺だけに掛かっているようだ。
俺はゆっくり剣を掲げる。二人に見せつけるように。
腕をそう上げていられない。だから、すぐに行動に移すしかない。二人がこちらを見ていたかどうかは分からない。ローズが俺の想像通りに動いてくれるかも、ウィルが動いてくれるかも、これから起こる事全て天任せだ。
――――俺が生きていることもな。
俺は一思いに、刀身をお自身の腹に突き立てる。
表現をするなら「ドスッ」だろうか。実際は「スッ」と入ったが痛み的には前者の方が合っているだろう。血は……想像より出てはいない。刀身を抜けば出てくるだろうが、出血多量ですぐ死ぬことはない……と思う。
それより今までの痛みランキングを軽々、いや重々か? 更新してきやがった……な。
「我が英雄……? い、一体何を――――」
黒き姫は状況が理解できなかった。
どうしてどうしてどうしてどうして―――――
だから、反応するのが遅れた。
ほんの一瞬だけ首を絞める力が弱まったことと、次に放たれた蹴りに。
騎士は黒き姫の弱められた手のせいで地面に落ちるはずだった。だが、騎士はその離された腕を逆につかむと、腰を捻り横っ腹に蹴りを入れる。もちろん、彼女が吹き飛ぶ瞬間には腕は離して。
そして、一息で倒れる友のもとに駆け寄る。少年は焦る騎士に向かって笑みを見せる。
騎士は覚悟を見た。
剣を傷口から引き抜くことを躊躇わない。傷口を布で止血することもしない。風よりも速く走った。
二歩だ。二歩で距離を詰める。
斬るものは分かっている。本来は斬れるはずはない、だが、この剣なら……
今だ混乱する黒いローズを一刀両断するかのように剣を振るう。
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