第89話 憎しみの火
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「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロス」
ローズの髪が風に巻き上げられているかのように逆立つ。
騎士はそのローズの言葉に眉を顰める。
「どうやら、嫌われてしまったみたいだけど……最後の忠告です。どうか、その体から離れてください」
騎士はまだ剣を構えない。
「お前、お前、お前、お前がいれば! お前があの時いれば。私は、私たちは、私たちの英雄は――――、殺す殺してやる。英雄気取りの偽物が……お前を絶対に許さない」
黒き姫はそう絶叫する。憎しみを吐く。
「これは……レン! 早くそこから離れて、僕の後ろに! 」
騎士が何かを察したかのように俺に叫ぶ。
俺は何が何だか分からないまま、一直線にウィルのもとに走る。
後方から感じる負の感情は尋常ではなかった。自分に向けられているものでないと分かっていながらだが……それでもこの恐怖は人が絶えらえるものではない。
「お前はまた私から奪うのか……」
その時だ。風が吹いた。このほとんど閉ざされた部屋の中を。
「あっつ! 」
熱だ。ローズを中心として高熱が発せられていた。空気は熱さにより陽炎を生み出し、彼女の姿は揺れ動く。
「ああ、私の英雄。あなたは騙されているのです。可哀そうなあなた……。私が必ず助けます」
黒き姫は俺に笑みを向ける。安心していいのだと言うような優しい目をしながら。
そして陽炎が揺らめき姿が消える。
騎士は反応していた。突如姿が消えたローズはすぐ目の前に立っていた。掌から放たれる火炎を躱し、後ろのレンを抱え、範囲外に倒れる。いや、倒れてはいられない。片腕を地面につけうまく倒れずに飛びのいた。
「お、おおおおおおおーー」
「レン、あまりしゃべらないほうがいい。舌を噛むかもしれない」
俺には今何が起きたかよく分からなかったが、取り合えず騎士様が俺を片手で抱えたまま、もう反対の手でバク転をしたことぐらいは分かった。凄い。
「チッ」
「これ、勝てるの? てかお前剣どうした」
騎士の手には剣が握られていなかった。
「ああ、今さっき落とした。とっさに躱さなければいけなかったからね。勝てるかどうかは多分大丈夫だよ。……剣があればだけど」
確かにローズが立つ場所に騎士剣が突き立っていた。いや突き刺す時間はあったのね。
「でも、あそこに近づくのって……」
騎士剣の先、俺達が立っていた後ろの壁を見る。その壁は焼け焦げ原型を留めないほどに崩れていた。
「一筋縄ではいかないかもしれないね」
火炎は壁をも焦がす一撃だ。当たれば一瞬で灰燼に帰すだろう。
「お喋りはもういいかしら? お前の声は耳障りだから……早く死んで」
黒い姫は横一線に火炎を放つ。その火炎は蛇のように標的を追う。
騎士は俺を抱えながら追ってくる火炎を躱す。躱す。躱す。が、躱しきれない。そして、騎士は諦めたように止まる。
「レン、ちょっと熱いけど我慢して」
「え? 」
俺を片手で抱えながら、もう片方の手を火炎に向ける。その手には確かに黒い剣、剣と言うには短く小太刀のようなものが握られていた。それを火炎に向かって振り下ろす。
次の瞬間火炎は真っ二つに割れ消えていった。
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