第8話 今後の相談
ここまで来ていただきありがとうございます。
朝食を終えた俺は足早に自室に戻っていた。一人暮らしをしていた部屋の二回りは大きいその部屋はいまだに慣れていない。
少し考え事をしているとコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「失礼します。今少々お時間よろしいでしょうか」
先ほども食事時にいた執事のミキさんだ。
「どうかしたんですか?」
ミキさんは改まって俺を見た。
「いえ、レンさんは今後どうなさるのかなと思いまして」
これは俺が執事を引き受けるかどうかの話だろう。
「えっと、一応前向きに検討していますが……。本当にいいんですかね?」
「ええ、もちろん歓迎しますよ。人では増えるに越したことはありませんから」
よかった。これでお金の方は何とかなりそうだ。けどなんでこんなに信用されてるんだろうか? 普通昨日あったばかりの人をいきなり雇ったりしない。この国の人は皆疑うということをしないのか?
「意外ですか?」
「あ、いえ、なんかもっとこう慎重に決めないのかな、と思いまして。――ぶっちゃけ俺怪しくないですか?」
「いえいえ、話してみると分かりますよ。あなたは心の優しい人です」
真面目な顔で面と向かって言われてしまうと少し恥ずかしくなってしまう。
「後、もう一つお話がありまして」
「どうかしたんですか? ……まさか今から仕事をみっちり教えるから覚悟しろよ的なことがあるんですか?」
なぜか変な緊張感があるので少しおどけて見せる。
「すいません気を使わせてしまいましたね。実はお嬢様の話なのです」
ほんのりと笑みを浮かべた後、神妙な顔をしてそう言った。
「と言いますとやっぱり昨日の件ですか? 今日見た感じもう大丈夫そうですが」
「いえ、あれは一時的な物なんです……。突拍子もなく昨日したようなことを起こして、止めると正気に戻ったかのようにいつもの笑顔を絶やさないお嬢様に戻るのです」
「病気なんですか? でもすぐに正気にもどるって……。」
訳が分からない。あいつがあんなことをしたのは昨日たまたま気の迷いで、だって、そんな……。それにあんなに……。
「教会や医者に見せましたが、……病気や呪いではありませんでした。何か精神的な物のせいだろうとは言われていますが。原因は、その、どうにかできるものではありませんから」
恐らく原因は昨日も話していた家族の事だろう。心的病気は直すのが難しいと聞いたことがある。だからここで暮らす――もとい療養しているのか。
「それで俺にどうしろと? 力になりたいとは思いますが……。何かの役に立てるとは思えないんですが」
「昨日のお嬢様はずっと笑顔でした。あなたを物語の英雄と重ねているのかもしれません。何も、英雄の振りをしろとは言いません。ただ、過ごしていただけるだけでいいのです。……どうかお願いします。お嬢様を救って下さい」
『救う』この言葉がどれだけ重いか知っている。自分が力になれない苦しさも知っている。
だから、その鬼気迫るような願いを――――――断ることはできなかった。
「できる範囲内ってことなら全力を尽くさせていただきます。で俺は何をしたらいいんですかね? 流石に過ごすだけってのも悪いですし」
右手を差し出す。
「はい、執事兼身辺警護をおねがいします」
ミキさんはその手を両手で強く握ってくれた。
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