第87話 枢機卿の望み
ここまで来ていただきありがとうございます。
俺は突然の事に何もできずにいた。
「やめろ、は、離せよ」
強引に振りほどこうにも振りほどけない。どんな腕力してんだよ……。それよりも何か様子が……。
「ずっと、待ってた」
ローズがそう呟いた。耳元で囁くように。
「? 今なんて――」
「私、私、私。待ってたの今日を。なんて遠き時間。日々。年月。待ち焦がれる時間は永遠のように思えた、だけど、今、この時、この瞬間、そんなものはどうでもよくなったの」
恋する少女のように情熱的な言葉は愛にあふれている。
おかしい。これはローズじゃ……
「ああ、私の愛しき英雄。世界を救った英雄。私を殺した英雄。信じてた。また会える日を」
そう言いながら強く抱きしめられる。痛いほどに。
「は、離せ……」
息ができない。骨が軋む。ヤバい。そんな中ふいに気が付いた。ローズの髪の色が暗い。髪が暗いのは部屋が暗いせいだと思っていた。だが、これは変色したように黒みを帯びた赤色になっている。
髪の色と瞳が変わっている。ローズは青くなる時もあったが、こんな変化があるなんて言ってなかった。ってことは――――
「何かがローズに入ってるのか……? 」
でも、このままじゃ……死ぬ……。
そう思った時だった。意外な声が聞こえた。
「そうでございます。わが女神よ。あなたの悲願は私カエルがかなえましたぞ」
朦朧とする意識の中そちらに目を向ける。
カエルが君の悪い笑みを浮かべ立っていたのだった。先までの狼狽え、何かに怯える姿はどこにもなくなっていた。
「ぐへっ! 」
ふっと俺の体が倒れた。それは体を支えていたものが無くなってしまった結果だ。机に激突するや否や止められていた肺への酸素の供給を開始する。
ローズが一瞬のうちに消えたのだ。いや、移動したのだ。それはカエルの前に姿があった。
俺はこの短期間で瞬きより早く移動した人たちを見た。それとは明らかに違う感覚だ。恐らくワープに近いものだろう。
「我が女神よ。どうか私の願いを…………」
カエルは近づいたローズに驚きもせずに言葉を続ける。まるで、百点を取った子供が母親に褒めてもらおうとするかのように。
「あなたは……そう私を……」
「そうでございます。依代を用意したのも、こ奴めを連れてきたのも私でございます」
カエルは更に笑みを強める。
「そうね、褒美ね……あなたには感謝しています。それ相応の望みを言いなさい……」
「この世界でございます! 我が女神よ。この世全てをわが手に……」
カエルは狂ったように手を広げそう告げる。それほどの望みをかなえられるものなのか?
「……」
「我が女神……? 」
「ごめんなさい。この世界は私と彼のものだから」
カエルが燃え上がった。それも禍々しい漆黒の炎によって。地獄のような炎は闇をより黒くする。
「そ、そんな。我が女神……どうして……」
黒い塊は倒れた。辛うじて形は残っている。
読んでいただきありがとうございました。
もしよろしければ感想、評価、ブックマークもよろしくお願いします。




