第85話 黒いドレス
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一人のメイドは静かに黒髪の少年が立ち去るのを見送った。いや、実際には目を瞑っていたので見てはいないのだが。
足音は少しずつ遠ざかっていく。その音が聞こえるかどうかとなったことを確認するとゆっくりと目を開く。眠るように瞼を閉じたのはもちろん演技だ。しかし、なぜこんなことをしたのかと言う話になるだろう。それは……
「あのお人よし……」
アイツが私に気を使っていたからだ。アイツは走れない私に歩幅を合わせたり、ずっと私を気にかけていた。それに私は動けないほどではないが明らかに体が重かった。こんな状態じゃ、何の役にも立たない。むしろ、お荷物になるのは目に見えていた。
「私なんか置いてさっさっと行けばよかったのに……」
それが許せなかった。だからアイツの世話になるくらいならここで大人しくしておこうと思ったのだ。
「ローズ様どうかご無事で……」
そのような祈る声が静かな廊下に響き渡る。
男は走っていた。こんなに廊下を走ったのは初めてだ。学校では基本真面目だったし、そもそも学校で急ぐことなんてほとんどなかった。全くそんなことは関係ない。今はただあの男を追うだけだ。
カエル枢機卿。ローズを昔から知っているようだったけど、ローズの一連の原因はあの男にあるのだと俺は睨んでいる。
「やっと着いた、この先か? 」
俺はなかなかに長い廊下を走り終え、扉の前に立っていた。
扉は反対にあった扉とは違い、豪華なつくりとなっていた。そんな扉に思い切り力を籠める。そして、扉はすんなりとその口を開いた。
「なんだ……ここ……? 」
そこは聖堂とは違っている。これは直感的な何かだが明らかに聖と反対的なものだと分かった。
黒く、禍々しい何かが描かれた壁画? のようなものが壁に描かれた部屋だった。龍とも濁流とも取れるその絵は、一言で表すとするなら『邪悪』だろうか。そんな絵が何で教会の奥の部屋に……?
する遠くからこんな声が聞こえてきた。
「も、もうしわけありません! どうかご慈悲を……ご慈悲を! 」
この腑抜けた声は……
「おい、何今更そんなこと言ってんだ……カエル! 」
そう言いながら声の方を振り返った。そこは、扉から少し奥に進んだところだ。そこにはへたりこんでいる老人の姿があった。
俺は走って駆け寄った。
「おい、聞いてんのか? 」
そう言ってカエルの胸倉をつかむ。
「は……は……」
カエルは虚空を見つめながらそうつぶやいている。
「どうなってるんだよ……」
恐らく元凶であるカエルがおかしなことになっている、そんな状況に俺は困惑していた。
俺はカエルが見つめる虚空を目で追った。その先には――――机があった。だが、重要なのは机ではない。重要なのはその上に載っているものだ。
その上にはローズが寝かされていた。それも、似合わない黒いドレスを身にまとって。
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