第77話 無上の騎士
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謎の女ヴァネッサは更に速度を上げ金髪の騎士に切りかかる。それを騎士は、容易く打ち払う。剣と刀がぶつかり合った火花が騎士の周りを舞う。
「今から右腕を落とします。それでも、やめないのならば次は左腕を」
騎士は四方から切りつけられながらそう言う。まるで、何事も起こっていないかのように澄まし顔で。
「…………」
女は何も答えない。ただ、切りかかるのをやめないのがその答えともいえるだろう。
そして次の瞬間――――女の右腕が舞う。
女の腕があった場所からは赤い血ががあふれ出ている。廊下の絨毯は血潮に染まる。
女は表情を変えず、次は地面に撃ち落されていたナイフを左手に握り、切りかかる。明らかに速度が落ちたナイフを二、三回弾かれた後――――左手も切り落とされる。
両手を失った女はナイフを口に銜える。まだ続ける気のようだ。血を両手からまき散らしながら動く姿はとても人間とは思えなかった。
「……理解できません」
騎士はその行動を見守っているかと思うとそう、目を伏せ悲しそうに言った。
「…………」
女は何も答えない。両手を失った体で騎士に向かう。どこか狂った光景だが、女の表情は変わらない。
騎士はそれを正面から受ける。剣を振る。次は足のようだった。
女の右足は切り落とされてはいなかったがもう立ち上がることは不可能に思える傷だ。だが、左足を使い後ろに飛びのいた。そして、元居た場所を騎士の剣がなぞる。
女は座り込んだ。いや、崩れ落ちたとも思える。
「……ここまで見たいね」
「ええ、大人しくしてくだされば。命までは奪いません」
「それは、『今は』でしょ……」
女の表情はどこか諦めたかのようだった。
そして騎士はその動けない女に向かってゆっくりと近づく。騎士剣はまだ抜いたままだ。
「まさか最後に、こんな所で、こんな素晴らしい騎士と戦えたなんて誇らしいわ。あなたはどうかしら? 私じゃ力不足だったかしら?『無上の騎士』ウィルフレード・メーフス」
「いえ、私も危ない所でした。『胡蝶』ヴァネッサ」
そう二人はお互いを称えあう。
勝者、敗者そんなものは関係がないような。そんな、烈火のごとき戦いの後を、凪のような静けさが場を満たしていた。
徐々に俺の意識が戻ってきた。今がどういう状況なのかも大体は理解している。頭はイカレテしまっていたが瞳はこれまでを映していたためだ。だからと言って、次の行動は理解できないものではなかった。
ヴァネッサは言った。『最後の戦い』だと。それは大人しく捕まるという意味ではなかった。両手を落とされてまで戦った女だ。大人しくなるはずがなかったのだ。
女は近づく騎士にこれまでとは全く違う表情を見せていた。とても恍惚な笑みだ。これから起こる何かに向けての笑みだった。
騎士はゆかを陥没させる勢いで地面を蹴り、俺に向かって走り出した。走りだしたと俺が気付いた時には元居た場所からはるか遠くにいたが。
そして、女がいる場所が閃光を放つ。屋敷が――、空気が――、音が――、死ぬ。すべてを殺した爆発が起こる。
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