第76話 月光の下で
ここまで来ていただきありがとうございます。
俺の眼前に騎士が立っていた。抜き放たれた剣は月光を反射し、凛々しく――、勇ましく――、おとぎ話の騎士そのものが立っていた。
俺の方に振り向きもせず、謎の女、ヴァネッサに向き合う。
おれはたすかったのか? だれだあれは?
俺は頭の理解が追いついていない。
「これは、精神系の魔法……いや、痣の力に近いかな」
騎士はゆっくりと女に近づく。
「――正解。これは借りている力なんだけど……どうやらあなたにも効いていないみたいね」
女は少し間をためてそう答える。
「効いていないわけではありませんよ。この精神系の攻撃は恐らく、あなたを知覚することにより効果を強めるものですので、視点をずらし、声は聞かないようにして、口を見て言葉を理解しているからだと思います。それにこの制服にはそう言ったものを軽減する効果も編み込まれていますので、それでどうにかなっているだけですよ」
騎士は悠長にも自分がなぜ大丈夫なのかを説明する。
「あら、慰めてくれるの? 」
「もちろん。僕に女性を傷つける趣味はありませんから」
「その割には、私の手ごと切ろうとしていたように見えたのだけど? 」
女は刀を握っていた方の手をプラプラと振って見せた。
「申し訳ありません、彼を傷つけようとしている風に見えませたので……どうです。その能力切っていただけませんか? 」
騎士は本当に申し訳なさそうにそう言った。
「ごめんなさい。それはできないわ。だって、あなた強いもの」
騎士のお願いが聞き入られることはもちろんなく、女の雰囲気が一気に研ぎ澄まされた。
「そうですか……それは、残念です」
騎士は少し悲しそうな表情を見せたかと思うと、すぐに元の表情に戻る。そして、騎士剣を構える。
女の姿が消えたかと思うと、暗闇から数多のナイフが投げられてきた。それも、目にも止まらぬ速さで。
風を切りながら飛ぶナイフが流麗な剣技で打ち払われる。そこに無駄な動きはほとんどなく、舞を舞っているかのようだ。
そして、そのナイフに乗じて、ナイフ以上の速さで、近づくものがあった。
女は刀を構えながら突進していく。
騎士はそれを難なく払い、体勢を崩した女に追い打ちをかける。――が、女は体をひねりそれを躱す。
女は腕から血を流していた。どうやら、躱しきれていなかったようだ。髪は乱れ、先ほどの余裕はなくなっていた。
騎士は戦いが始まる前と何一つ変わっていなかった。服に切れた後はなく、汗一つ流さず、息も上がっていない。そして、騎士は精神系の能力のため女を視界の端でしか見てはいなかった。
騎士が女より強いのは一目瞭然だ。
それでも……
「まだ続けるんですか? 大人しく投降してください」
「いいえ、私は戦うわ。それが私だもの」
騎士の問いかけには応じない。
読んでいただきありがとうございました。
もしよろしければ感想、評価、ブックマークもよろしくお願いします。




