第71話 嘘と無謀
ここまで来ていただきありがとうございます。
「見えてきましたよ」
そう声を掛けられた時にはもうほとんど日が暮れてしまっていた。あたりもすっかり暗くなっている。ただ屋敷の明かりだけが明々としている。そもそも屋敷の近くには建物はない。隣の家とは一キロほど離れているだろうか?
「何も起こってくれていないと嬉しいんだが……」
そう思い、馬車から降りると扉をノックした。
すると扉が開き始めた。
「お帰りなさいませ、レンさん」
そこにいたのは――――同じメイドのサキさんだった。てっきり誰も出てこないものだと思ったのだが……。
「えっと、ただいま帰りました……。あの大丈夫ですか? 何か変わったこと起きませんでしたか? 」
俺は小声でサキさんに尋ねる。サキさんはあの時は見かけていない。正直カレンさんが化けられている以上サキさんは白だろう。
「何かって何ですか? 」
その返答は一種の回答でもあった。何も起こっていないという。
「いや、それならいいんですけど……」
俺はほっと胸をなでおろしていた。正直ここまで悪い想像通りだったのでまたも嫌な予感が的中していたら俺は疫病神か何かなのかもしれないと思ってしまうところだった。取り越し苦労結構何もないのが一番だ。
「それで、お嬢様はどちらに? 」
サキさんはそう言った。??? 意味が分からない……だって
「え? ローズはここにいますよね? 何言ってるんですか? 」
俺は確かにミキさんと二人で出たはずだ。
「はい? 私はついさっき帰ってきたんですけど、カレンさんがお嬢様はあなたと一緒に病院に向かったと言っていましたが……」
「――――!! 」
やられた。そんな俺の表情を見て事の重大さを感じ取ったのかサキさんの表情も険しくなる。
「どうしたんですか? 全く分かりません、詳しく話してください」
「ローズは俺と一緒に病院には行っていません。ローズはこの屋敷に残ったはずです。そして、多分あのカレンさんは偽物だと思います」
「な、何言ってるんですか? そんなこと……」
サキさんは混乱しているようだ。俺の説明も分かりやすいとは言い難い。が、今は頭を整理して説明している暇はない。
「それより、そのカレンさんは今どこにいるんですか? 」
「それなら、――夕食の準備をするとキッチンにいるはずですが……」
恐らく偽物のカレンさんの居場所は分かった。でも、行くべきなのか? 行ったところで俺に何ができるんだ? 見つかって捕まって終わるだけだ。もしかしたらサキさんや兵士の方が殺されるかもしれない。
「サキさんはここにまで馬車を引いてくれた兵士の方と一緒に助けを呼びに行ってください……」
それなら、俺一人がいいだろう。俺なら殺されないかもしれない。
「あなたはどうするんですか? 」
サキさんは普段見せないような、必死な表情になっていた。いつもは長い前髪によって見えないはずの双眸が見えている。それは吸い込まれるほど美しい、瑠璃色だった。
そこまで長く一緒にいたわけでもないのに、こんなに心配していただけるとは思わなかった。
「大丈夫です。ローズもきっと大丈夫ですから。――そうだ、敵は人に化ける力があるんです。その時のために一つ合言葉を決めておきましょう。そうですね、こういうのはいかがでしょうか――――――」
読んでいただきありがとうございました。
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