第69話 ナニカガオカシイ
ここまで来ていただきありがとうございます。
「――ん? もう夕方?」
ローズは寝室で目が覚めた。確か、昼食の前に仮眠を取ろうと思っていたのだが……窓の外から夕日が差し込んでいる。日時計を見るともうすぐ夜を指すところだった。
眠気眼を擦り、軽く伸びをする。正直ここ最近の仕事が溜まっていたので眠っている時間などなかったのだが……体の疲れには逆らえなかったようだ。
ベットから起き上がると荒れていた身だしなみを軽く直して、水をもらいにキッチンに向かう。
「そう言えば、昼食も取ってないわね」
確か、軽いものをカレンに頼んだような気がするけれど、あの人の事だ、眠っている私を見て気を使って起こさなかったのだろう。
こういう時はキッチンの保冷箱の中にでも置いているだろう。あいつはなんか冷蔵庫とかなんとか呼んでいたけど。あいつの住んでたところとは結構ものとかの呼び名が違うのかしら。
メイドの皆の姿が見えない。途中で見かけたら声をかけておこうと思っていたのだけれど……。
その時の屋敷はやけに静かだった。いつものうるさい男がいないのもあるのだろうが……。そんなことを思った時だった。廊下の曲がり角を曲がる人影が見えた。身長的にカナではないのは確かだったが、確かにメイドの服装だった。
「ちょっと、ちょっと待ってー! 」
そう声をかけたものの人影は聞こえなかったのか、そのまま進んでしまった。
ローズは少し駆け足でその影を追う。何か嫌な予感がした。あいつがこの屋敷を急に飛び出したことの原因のようなそんな気がしたのだ。
そして、角を曲がると先ほどの人影の正体はなく、また少し先で、ある扉に入る人影の姿が見えた。その扉の先には、来客が泊まる用の部屋があった。あいつが初めて来たときはその部屋に通していたのだが、今はあいつには新しい部屋が与えられている。
そんなことはどうでもよくて……どうしてあの部屋に入るのかが問題だった。掃除のためなら手ぶらで入ることはないだろう。しかし、あの人影の手には何も握られていなかった。
その部屋に近づく。ドアノブに手を掛けた。心臓の鼓動が早まるのが分かる。私は決して怖がりなんかじゃない。でも――何となく、そう、何となく嫌な予感がしてならないのだ。ただの『何となく』がここまで怖く感じるのはいつぶりだろうか。
そして、一思いにドアノブを回し、開く。
その中には――――
「あ、お嬢様! もう大丈夫なんですか? 」
そこにはカレンがいた。
「う、うん。もう大丈夫。よく眠れたわ。これなら夜遅くまで仕事ができそうね」
私は少しホッとしていた。私の目の前にはよく知るカレンがいたのだから。けれど……この『何となく』は今だ続いていた。
「ダメですよ! お嬢様。夜更かしは美容の天敵ですからね」
そんな少しお節介焼きな言葉もいつもとどこかおかしい気がする。
「そうよね……」
よく分からない違和感に俯いて答える。
「大丈夫ですか? 今日一日は休んだらどうですか? 」
そんな私を心配してくれたのだろうか? そんな言葉を掛けられた。
私は気のせいだと自分に言い聞かせ、心配してくれているカレンに元気に答えようとした時だった。
「ううん。私大丈夫――」
「やっぱり休んだ方がいいですよ」
私の言葉を遮ったカレンの言葉は、いつもと同じ顔で、いつもと同じ声で――――
ミタコトモナイヒョウジョウデ発せられていた。
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