第67話 本当の勝利
ここまで来ていただきありがとうございます。
「大丈夫? ケガはない? 」
体中傷だらけの騎士は自分の事は気にせずそう言った。
「えっと、大丈夫です。それにこの子も多分」
腕の中にいるミーコの体を確認した。どうやら、本当に傷はつけられてはいないようだ。気絶させられた時につけられた痣でもありそうなものだったが……どんな方法で気絶させたんだよ全く。
俺は何もできなかったのだ、もちろん体に傷はない。
ただ一点、心に自分の弱さと言う傷が残っただけだった。
俺はミーコを一旦側に寝かせエイルさんのもとに駆け寄る。立ち振る舞いや言動こそ普通だったが、こんな戦いをしておいて平気でもないだろう。
「エイルさんこそだいじょうぶなんですか? 」
「結構切りつけられちゃったけど、そこまで深い傷はないから大丈夫だよ」
「取り合えず、止血しましょう」
馬車に積んでいた救急箱を思い出し、急いで持ってきた。包帯を巻くのは初めてではないものの、慣れているわけでもなく、少し不格好になってしまった。
「ありがとう。レン君」
「お礼を言うのは俺の方です。本当にありがとうございました。もし、エイルさんが来なかったら俺たちは……」
俺は頭を下げ、誠心誠意お礼を言う。そして、自分の弱さを改めて実感した。
「でも、俺が来るまで守ったんだろ」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずかエイルさんはそう言って俺の頭を撫でてくれた。
「そんなの、ほんの少しの時間ですよ……」
「それがあって俺が間に合ったんだぞ」
「変わりませんよ……」
「……かもしれないね。でも、俺はそれ、カッコいいと思う。あいつがお前を殺さないと分かっていたとしても、飛び出せるってのはすごいことだよレン。力なんてこれからつけて行けばいいんだよ。……だからよ、自分が弱いとか役に立たないとか思うなよ」
エイルさんは普段とは違いフランクな口調ではなく真剣な声になっていた。
その言葉に俺は涙が止まらなくなった。それは、自分の弱さを嘆く涙ではなかった――、
「そろそろ俺喋ってもいいかな? 」
そんな声が聞こえた。聞こえるはずのない男の声だ。
胸が真っ赤に染まった男が立っていた。どうやら傷はなくなっていた。腕の傷も、顔の傷も。その姿を見た瞬間俺は腹部に強い衝撃を感じ、数十メートルを吹き飛ばされた。だがこれは――
エイルは反射的に動いていた。近くにいた少年を少し力強く後ろに蹴り飛ばし、すぐさま騎士剣を構えた。
「……本格的にまずいな」
「さっきのは素晴らしい不意打ちでしたね騎士様。ですが、同じ手は二度と食らいませんよ」
謎の男は、不敵な笑みを浮かべている。
そして、ナイフを構え目にもとまらぬ速さで一歩を踏み出そうとした時だった。男は急に立ち止まったのだ。
「……そう言うことですか。今回はあなたの勝利としましょう」
謎の男は急にナイフを仕舞い、そう言う。
一体どういうことなんだ? 俺には何が起きたのか良く分からなかった。
「何とか間に合った」
エイルさんはそうつぶやいた。そして、よく耳を澄ませると、なにやら音が聞こえる。多くの音だ。その音の聞こえる方向を向くと、馬車とそれに乗った大勢の兵士がこちらに向かって来ていたいたのだ。
「では、またいずれお会いしましょう。そうそう、名乗っていませんでしたね。私はスカリ。できれば覚えておいてね」
俺に向かってそう言うと男の姿は消えてしまった。
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