第66話 ナイフと剣の舞
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「まだ、やる? 」
エイルさんはそう言った。十数メートル先は蹴り飛ばされた謎の男が地面にぶつかったために起こった砂煙でよく見えていない。
大人の男を数十メートル吹き飛ばした蹴りを顔面に受けて立ち上がったりしたら正直勝てるのか怪しそうだが……
「やめるわけには行きませんよ、騎士様」
煙の向こうからそんな声が聞こえた。その甘ったるい騎士様と言う声が本当に不快な気持ちにさせられる。
「これは……ちょっと大変そうだな……」
エイルさんの表情もあまり良くない。
「続きをしましょう騎士様」
煙の向こうから男が出てくる。顔に目立った傷はなく、少し髪が乱れているぐらいだった。どうやら、エイルさんが切りつけた腕にはダメージがあるらしく、切りつけられた左腕はだらんと垂れ下がっている。
そんな状況でまだ続けるつもりなのか……。俺には理解できない。
「レンもっと下がってて」
そう言葉を発し終わるや否や、二人の姿は霧散する。直後、前方で剣とナイフが起こした火花だけが目に残る。目には辛うじて残るような速さでの剣戦は俺には良く分からない。
謎の男のナイフさばきは恐らく利き腕ではなくなったであろうに、衰えることはなく、左手と同じ速度と技量で襲い掛かる。得物がナイフと違い長い剣は不利かと思われたが、そのナイフをことごとく捌ききる。――――が、技量においては相手が上なようで、少しずつ騎士の体には切り傷が増えていく。額、腕、足、お腹、様々な個所を狙ったナイフは致命傷にはなり得ないにしても……着々と騎士の体力を奪っていく。
「騎士様ってその程度なんですか? 」
相手はナイフで切りつけながら、そう挑発をする。
騎士は分かっていた、明らかに格上の相手に勝つなど、相手を切り伏せることは不可能だと。
謎の男の勝利とはこの騎士を殺すことなのか? ――ではない。謎の男の勝利は、後ろの二人を連れ去ることだ。
騎士の勝利はこの男を切り伏せることなのか? ――ではない。騎士の勝利は――――。
「騎士がこの程度なわけないでしょ」
ナイフを捌き、笑いながらそう大口をたたく。
謎の男もニヤッと笑う。
「じゃあ、もういいです」
そう言うとナイフで騎士剣を跳ね飛ばした。空へ舞った騎士剣は後方の地面に突き刺さる。そして、ナイフが騎士の胸に振り下ろされた。
胸から大量の血が流れだす。――――謎の男の胸から。ナイフは寸でのところで止まっていた。男の手からナイフが落ちる。男の胸には騎士剣が刺さっていた。ついさっき地面に刺さっていた騎士剣はなくなっている。
「……また、余裕こいちゃったみたい」
そう言って謎の男は倒れる。
エイルさんは相手に突き刺した騎士剣を抜き、謎の男が倒れるのをさっと躱した。そして、付いた血を振り払い、剣をさやに戻す。
掌についていた血をぬぐう。その右の掌には――――羽のような痣が見えていた。
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