第62話 奮闘空しく
ここまで来ていただきありがとうございます。
気づかれずに、助けを呼ぶ――――言葉にすれば簡単だが実際はそううまくはいかない。そもそも、この森は普通の方法では入れないらしいし、本格的にまずい。それも嘘な可能性も無きにしも非ずだが、人が来るようなところに誘い込んだりはしないだろう。
ミキさんは変わらず歩いていく。屋敷に向かって。
屋敷の様子はまさしく魔女の家。壁に蔓は生い茂り、長い間放置されていたのだろう。だがそれとは裏腹に壁や扉は綺麗なままだ。傷一つなく腐食している個所も見られない。蔓を取れば新築にも見えるだろう。
その屋敷からは背筋がゾクゾクする、感じがする。入ったら最後出られないかもしれない。この森がこのように異形な姿をしているのはもしかするとこの屋敷が原因なのかもしれない。
「どうしましたか? 」
ミキさんが振り向いていた。俺の足が止まってしまっていたのに気が付いたようだ。
「いえ、何でもありません」
いつも通りの表情で答える。声色も普段通り。何一つ違和感はないはずだ。
「……そうですか。では、入りましょう」
もう屋敷の前まで来ていたようだ。少し考え事をし過ぎてしまっていたようだ。
どうする?どうする?どうすれば……
「あ、あの、ミキさん本当に入らなきゃだめですか? すっごいヤバそうな雰囲気があるんですけど……」
「……そうですね。ですが、その分安全は保障しましょう。さあ」
いつも通りの笑顔でそう答える。
「そ、そうだ、ちょっとトイレに行きたいんですけど、どこかにありますか? 」
「………トイレですか? この屋敷の中にありますよ」
そ、それもそうか……。じゃなくて、クソッ、どうしよう。
「どうしたんですか? まるでおびえているようですが。……この中に入れば大丈夫ですよ。追跡者もこの中までは入ってこれませんから」
ミキさんは笑顔のままそう答える。先ほどの笑顔より嫌な感じが増した笑顔でだ。
「い、いや、ほら――――」
「ん――ミスったか。一体何が原因なんだろ」
一瞬で空気が一変した。その声はミキさんのものではなかった。表情も姿もミキさんだが、明らかにこれはミキさんではなかった。
その声は、冷徹で――、冷酷な――、絶対零度のような声だった。すべてをあざ笑い、何も信じていないような。
「あの、ミキさん? 」
「いいって、大丈夫だよ。気づいてたでしょ。偉いよね、その子守ろうと必死に考えを巡らせてたんでしょ。カッコいいね」
腕を組みそう話す言葉は少しおちゃらけ多様な口調だったが、何の重みも感じなかった。まるでどうでもいいことのように。
「で、どうしたい? あ、殺しはしないよ。俺の目的は君たち二人を連れて行くことだけだから」
そう言うとミキさんの姿だったものが解けていく。いや、溶けていく。溶けたものは地面に落ちることはなく、少しづつ男の掌に集まっていった。男はそれを握りつぶすと後ろに放り投げた。
読んでいただきありがとうございました。
もしよろしければ感想、評価、ブックマークもよろしくお願いします。




