第3話 ローズ様
「デカい屋敷だな。ホントにここが本邸じゃないのか?」
驚いてつい声を上げてしまった。
上を見上げればシャンデリアが太陽がごとくきらめいていて横を見ればどこぞの有名画家が描いたであろう絵画が飾られていたり、花を挿す花瓶も高価な物だろう。
それであって、豪邸特有のしつこさがまったく感じられない。質素さすら感じるほどだ。
これまで、一般家庭ちょい下ぐらいの生活をしてきた自分にとっては、住む世界が違う。二つの意味で。
「ホントよ。と言うか私王女だから本邸はお城よ。――で、ここの部屋を使っていいわよ。侍女には説明しておいたから。それと夕食や朝食の時間はその少し前に知らせが来るわ、まあ3日位なら居てもいいわよ。服は何着かは持っていってもいいから」
俺の先を進む紅髪の女性は、こちらに向かずに言葉を続ける。
「え、お前って実はできる女だったの?」
手際の良さにまた驚かされた。服装と聞いて想うのだが、俺の服装はすごくは場違いだった。
上は無地の白いTシャツに下は青いステテコパンツというパジャマ姿だ。外を歩いた時に好奇な目で見られたが、それも当然だ。そして靴は寝るときには履いていなかったサンダルを履いていた。
学校の制服などであれば見栄えも悪くなかっただろうが、これでは路地で生活しているものと見られてもおかしくはない。
「そうよ。そういえばあなた目的がないとか言ってたけど本当はこれが目当てだったんじゃないの?」
自画自賛しつつ疑いの目を向けてくるが、心外だ。
「さっきも言ったがあの時初めて知ったんだよ」
暫しついさっきの驚きの自己紹介に遡る。
「この国の王女よ」
「あ、うんそうかそれは良かったな」
足早にこの場を立ち去ろうと決める。
どこの世界でも自分を王様だとかお姫様と自称する者にまともな人間はいない。
「ちょっとまって。今困ってるのよね……じゃあ助けてくれたことに免じて手を貸してあげるわ」
目の前の女はすごく不気味な笑顔をして言ったのだ。
この時俺は非常に嫌な予感を感じていたがそれは後に現実となった。
それで今に至る。今考えるとすごく短くて文にしてみると数十字程度の会話しかしてない気もする。王女と名乗るヤバイ人から一刻も早く離れたかっただけなのだが。
「改めて自己紹介するわ、私の名前はローズ・ピオニ・ロメアよ。以後ローズ様と呼んでもかまわないわよ」
自慢げに上から目線で言ってくる。
「そうか、俺の名前は蓮、鈴木蓮だ。よろしくなローズ」
「様を付けてよ様を」
命の助け合いをした仲だ。今更敬称を付けるのもおかしいだろう。普段であればありえない。今日出会った女性の名前を気安く呼ぶなんて初めてだった、だが不思議とよく馴染む。
「で一つ聞いてもいいか?」
時間が過ぎ夕食が済む。そこにできた空き時間に気になっていたことを聞いてみることにした。
今は食後のティータイムである。ローズと名乗る女性は高そうなソファに腰を掛け、高そうなカップに高そうな紅茶を優雅にたしなんでいらっしゃる。
「何を?」
カップに口を付け、それを置いたかと思うと無愛想にそう言った。
「いや王女様ともあろうお方が何で本邸と言うかお城に戻らないんだ?」
「……あ、そっち? てっきりあの高台で何であんなことをしたのか聞かれると思って身構えちゃった」
「さすがにいきなり聞く勇気は無いよ」
後で聞くつもりだったことを無かったことにする。流石にそれは踏み込みすぎだろうか。いつか、自分から言い出せるぐらいの状態になればよいのだが、それを俺が見届けることはない。
「一応そのことと関係してるんだけどで、簡潔にいうとお姉様に、ちょっと、嫌われてるみたいで……」
太陽が陰る。これまでの強気な態度が一転し、カップの中身を見つめている。
嫌われる。実害を被っている程の嫌がらせは、いじめ、と呼ぶが……、この様子だとないとは言い切れない。
「お前がか? そうゆう事される性格に見えないけどな。もしかして家では静かなタイプか?」
人間はいくつも顔を持っている。家族の前、友達の前、知らない人の前、全員に同じ対応をする人なんているはずがない。特に強気な側面を持っているものは、どこかで真逆の側面を持っているものだ。
「失礼ね。そんな事ないと言いたいとこなんだけど……ね、色々事情があって家族には強く言えないのよ。……あんまり驚かないのね?」
少し様子が違う感じに引っ掛かりを覚える。しかし、家庭の事情それも王族に突っ込める訳が無い。
「ん、いや王族にもそうゆうことがあるとかないとかって本で読んだことがあったし、まあ今日は何かと沢山あってもう驚き慣れただけだよ」
疲れたよう手を振って答えた。
「まあ、そうゆう訳でここに逃げ出してきたってことか。お前も大変だな」
「お父様もお母様も優しい人なんだけどね・・・」
似合わない悲しげな顔をする。こいつも結構大変な人生を送ってきたのだろうか。
同い年くらいの女の子が家族にいじめられるというのは少しかわいそうだと思う。王族ならば知っていたとしても口を出せるものはいないだろう。これは彼女が変わらなければ続く問題。
「とりあえず俺の今後の話してもいいか?」
「ええ、もちろん。でどうするつもりなの?」
「うん、どうしたらいいんだ?」
読んでいただきありがとうございました。