第36話 ローズの容体 下 二輪のバラ
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「そして、生まれながらに痣を持つものは何か使命があるのではないかと言う者もいます。――――お嬢様は生まれながらに女神様に愛されていたようで太ももに二輪のバラの花の痣があったようです。名前は生まれる前に決められていたようですがそれが奇跡だと国中は大騒ぎになったそうです」
太ももに……そういえばアイツいつも長めのドレスだったからそんなとこ見たことなかったな。もしかすると見られたくなくてずっとドレスだったのかもしれない。
「痣はどのような能力を有しているかは、使ってみて初めて分かります。使い方が分からずどのような能力か知らず生涯を終えた方も少なくないようですが、幸運にもお嬢様は早くにも能力が分かったそうです」
「……その能力って何なんですか?」
少し鼓動が早くなるのが分かる。唾をのみ熱くもないのに汗が滲む。
「その能力は……もう一つ魔力炉を持つというものです。魔力炉とは人間の内にある魔力を生み出す場所とお考え下さい。普通ならばそもそも持っていないもしくは一つだけなのですが、それが二つあるという本当に強力な能力です。それもそれぞれ魔力適性が違い、一つは火と光そしてもう一つは水と闇をもち、魔力炉が二つ分あるので魔力の生成も常人の二倍、貯蔵量も二倍と魔導士になるべく生まれてきたような能力でした」
そんなのとんだチート能力じゃないのか? そんな力あるって分かったときアイツはどう思ったんだろう。皆から期待の眼差しを向けられたアイツは……。
「ですが、まだお嬢様が幼かったころです。事件は起こりました。――――そこで心に大きな傷を負ったお嬢様は能力を暴走させてしまうようになったのです。それが最近になって精神的にまいってしまい悪化してしまっていたんです」
「――――まさか、あいつの姉にいじめられてるってやつか!」
「そうです、そのせいで一時的にこの屋敷に避難していたのですが……」
「ちょっと待ってください、その、幼いころに起きた事件って何なんですか? 」
「……その話は私の口からは話せません。いつかあなたがローズ様自身の口からお聞ききしてください」
幼いころに起こった事件……この国の軽い歴史を軽く本で読んだがそんなことはここ最近起こったとは知らなかった。もしかすると国に消されたのか? そんな事件があいつの小さいころに起こったなんて……
「分かりました……。で、それとこれのなにが関係しているんですか? 」
「能力を暴走させてしまうと言いましたねそれが自身にもう一つの人格を生み出してしまうことなんです。その人格とはローズお嬢様であり、ローズお嬢様ではないのです。」
「……? 」
「言い方がおかしかったですね。すいません。確かにもう一つの人格もローズお嬢様です。ですがそれはお嬢様の弱さそのもの、闇とは言いませんどちらかと言うと影が近いでしょうか、その時のお嬢様はいつも以上にお淑やかになり、いつもの元気強さが少し無くなってしまいます。そして決定的なのが髪の色と目の色が変わってしまうことなんです。――――――本当に美しい青色に」
「――――青い髪に青い目? 」
それってまるで――――
「そうです、あなたに会うときは確かアネモネと名乗っているようでしたね。何度も説明しても聞いてくれないから、と」
困ったものを見る目をしている。
「そういえば、何か変なこと言ってたがまさか……そうだったのか!」
「お嬢様は普段でもアネモネ様の時の記憶がありますしアネモネ様の時も普段の時の記憶はあり、どちらもローズ様ですから二重人格、とは言わないそうですが」
その時によって感じ方考え方性格が違うけど同じ一つの意識ではあるってことか?
「それが痣によるものだと言うんですか? そんなの関係ないように思えるんですけど」
「そうですね。関係ないかもしれません。ですが髪の色と言うのは魔力の適性によるところが多いんです。あなたのように黒い髪は凄くめずらしいのですが、すべての色、適性が混ざり合った結果なのかもしれません。痣によって与えれれた適性は水、そしてもう一つの人格になると髪の色が青色になると言うのは偶然とは思えません」
「――――」
何も言えなくなる。偶然にしてはあまりにも……。奇跡だと言われた力のせいでまさかこんなことになるなんて思ってもみなかっただろう。
「ここまで話しておいて変だと思われるかもしれませんが、私はそのアネモネ様としている人格がいなくなってほしいとは思っていないんですよ」
「え、なんでですか? 」
「それも、お嬢様ですから」
暗い顔をしていたミキさんが少し微笑む。
ここまでずっとそれが嫌いなのだと思っていた。それが無くなってほしいのだと言っているのだと。そんなことはなかったミキさんは心からそのローズも大切なのだと、そう思っていると分かる。
「じゃあ、なんで……」
「問題はお嬢様のあの自傷的な行動なんです。恐らく原因はその二つの人格がうまく合わないためでしょう。精神が重なり合って混ざってしまっておかしくなっているのでしょう。そうですね……例えるならきちんと分かれていたはずだった絵の具がおかしく混ざってしまっているような状態でしょう」
「絵の具が……混ざる……」
「うまく分かれることができたらもしかすると精神がおかしくなることもなくなるでしょうし」
でも混ざった絵の具をうまく分けることができるとは思えない。精神だって……。
「でも一体どうやって……」
「お嬢様を直すカギはあなたにあると私は思っていますよ」
ミキさんの目が真っすぐに俺を見つめている。希望の光を見るように。強い眼光で。真剣に。
「え、なんでですか? 」
「この前も話した通りですよ。前はあまり信用できまていませんでしたのでここまで話すことは出来ませんでしたが、今は違います。あなたが来てから良くなったことは確かですから……」
「でも……俺にはそんな力……」
「私はあなたに魔法を使ってポンと直していただきたいのではございません」
「……」
「今までよくなっていたのに急に悪くなったのには原因が必ずあります。今日おかしなことはありませんでしたか? 」
「カエル枢機卿が訪ねられたこと……ですか? 」
「そうですね。可能性が一番高いのはカエル様ですね。一度話を伺いに行きましょう。そこでこうなった理由がわかるでしょう」
そしてその場は解散となった。ローズには先生とミキさんが付きっ切りで見てくれるそうだ。俺や、メイドたちは部屋に戻ることになった。カナは残ると言い張ったが無理やりカレンさんに抱えられていった。部屋はメイドの人たちと方向が違うので別々になっているので途中で別れる。
俺は必ずあいつを助ける。拳を握りしめる。もう二度とあんなことは繰り返さないために。必ず……。そう俺は強く決意し部屋に向かって歩く。
その事しか頭にないせいかカレンさんが俺の後ろ姿に悲しそうな目を向けているのには気づけない。
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