第35話 ローズの容体 上 女神の聖痕
乾いた扉の音が響く。
カレンさんに続き遅れて俺とサキさんもローズの部屋に駆け込んだ。普段ならおとなしいサキさんも息を切らせている。普段なら咎められる廊下を走る行為を叱責するものはここにはいない。
皆の視線が集まる先にはミキさんが連れてきたお医さんがローズを何やら見ていた。現代人が見慣れている聴診器みたいなものはなく、素手で脈を図りながら、指に嵌めた不思議な指輪を彼女のおでこにかざしている。
何をしているのかは俺には分からない。でも、これで解決に進んでくれるに決まっている。直ぐにとはいかないまでも、薬か魔法で……。
「ミキさんお疲れ様です」
診察の邪魔にならないように小さな声をかける。
「ええ、少し頑張りました。――――正直これまで通りだと打つ手はないのですが……。もしかすると、今回は、よくなる。かもしれません」
「――――」
ミキさんは暗い顔を無理やり作ってそんな返事をくれた。ヘタクソな作り笑い。本当の考えが手に取るように伝わってしまう。
『これまで通りなら、打つ手はない』言う必要のない言葉を言ってくれた。俺に過度な期待をさせないために。
ローズを見つめる表情を見れば分かったことだった。自分がバカらしくて拳を握りしめる。
「先生、ローズはどうなんですか!?」
人前ではローズに敬語を使うべきなのに、飛び出した言葉に余裕はない。
大きな声に驚くことなくお医者さんはゆっくりと振り返ると、俺を見つめた後、ミキさんに向き合った。軽く首を振って診断を下す。
「これまでと同じです。健康的には何も問題が感じれられません。やはり、精神的なものが影響しているとしか……」
難しい顔がローズの現状を言葉以上に伝えてくれる。
聞きたくなかった答え。
「やはり……」
ミキさんは落胆することもなく、一言だけ。
想像していたんだろう。俺とは比べ物にならないぐらいの数もう既に期待を砕かれた瞳をしていた。
「――この痣の影響でしょう」
「痣?」
先生が何か気になることを言った。痣? とは何のことだ? ある病気特有の発疹が現れている……? つまり、何の精神病なのか、そこまで分かっていて――。
「レン君は聖痕、『女神の聖痕』を知っていますか? 」
「……いえ、それは何ですか? その女神のなんちゃらって、病気の名前じゃないですよね」
「はい。『女神の聖痕』そう呼ばれる痣を持つ人がこの世界にはいます。人によって現れる場所、能力、模様はそれぞれ違い、強大な力を痣を持つ者に与えます」
「……? それがどうかしたんですか?」
話の先が見えてこない。関係のない話にしか聞こえない。魔法とはまた別の異世界特有の力? が、今のローズの原因なのか?
「まあ、そう逸らないでください。その痣は、生まれた時からあるものや、何かがきっかけで現れるもの、生まれた時から持つものが変化したものに分かれます。それぞれ何が条件となって現れるかは分かりません。生まれた後に現れたものは少ない事例ですが共通点がないわけではありません。大切な人が殺されて怒りで痣が現れたものや、これから殺されるという恐怖から痣が現れたもの、王になると決まった瞬間に痣が現れたものもいました。これらから、何か心に強い影響が必要と思われていますがそれが本当かどうかは分かりません」
イメージとしてはゲームや異世界物とかにある加護のようなものだろうか? 何かがきっかけで女神様からもらえる力みたいな。
与えられる力とローズが精神を乱す理由はやはり関連性は見つけられない。
しかし、一々言葉の腰を折っていては話は進まない。第一に答えを知りたい気持ちを押し殺す。必要があるから前提から話しているのは考えれば分かる。その謎を直ぐに知るため、ミキさんに静かに耳を傾ける。
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