第34話 二人の皿洗い
ここまで来ていただきありがとうございます。
一人の食事は久しぶりだった。静かなダイニングでお皿とスプーンが当たる音だけが響く。
カレンさんの料理もすごくおいしい。この調子でいくとメイドは三人とも料理ができるのかもしれない。俺も基本的な物なら自信があるが……あれほどの料理は難しい。
しかし、日本食好きな俺としてはこれから先、一生食べられないのは心苦しい。いつか機会と材料があれば味噌汁を作りたい。
食器をもって流し台に置いておく。皆の分も置いてあるところを見ると後でいっぺんに片付けるつもりなのだろう。交代まではまだ時間がある。ちょうど俺が最後のようだし洗ってしまう。
そして、皿洗いを始めた。様々な家事の中で個人的にあまり差を感じない皿洗い。早さや効率は当然劣っているが、汚れ落としに置いては他と変わりがないと勝手に思っている。一応、きちんと指でキュッキュと音がなるぐらいには頑張っている。
一つの思考に染められている際の作業というのは時間を感じさせない。気が付けばほとんどの食器を洗い終えていた。皆なら俺が掛けた半分の時間で終わらせてしまいそうだが、やらないよりはましだろう。ラストスパートをかけようと気を引き締める。
「――あ、洗ってくださったんですか。ありがとうございます」
突然の声に驚きながら振り返る。音もなく部屋に入り、後ろに回っていたのはサキさんだった。
「勝手にすいません、交代まで時間がありましたので……」
お礼を言われ照れくさそうに下を向いて答える。
「まだ、ありそうなので手伝いますね」
俺の手元を見て、まだ皿が残ってるのが見えたようだ。本当に気が利く人だ。だから、皆の分の家事を任されたのかもしれない。
「ありがとうございます」
あまり会話もなく、淡々と作業のようにこなしていく。実際、残る皿の数は多くない、直ぐに終りを迎えるだろう。しかし、サキさんの洗い方がすごい。当たり前に俺以上に綺麗にして洗っているのに、こちらが一枚終えるまでに三枚も洗っていた。恐るべき手際だ。皿洗いグランプリがあるとすれば一位は確実だろう、いや特別賞までもらえてしまいそうだ。
「ミキさん、結構時間かかってそうですね」
「街の診療所は少し遠いですし、でも、もうすぐ来られると思いますよ」
そうこうしているうちに皿洗いも終わり、交代にもまだ時間はあるが行っても追い返されない程度には時間が経った。
サキさんの皿洗い法も横目で学ばせていただけた。次はもっと優れた洗い方ができる自信も湧いている。
ドタドタドタッ!
「……?」
響いてきた音にサキさんと顔を見合わせる。
確かに廊下の方から大きな足音が聞こえてきた。騒がしい足音だが、いつもそのような音を出す人は今は寝ているはずなのだ、誰だろう。
ガチャッと音が鳴り、少し激しく扉が開かれる。
「お医者様が来られました」
カレンさんだった。慌てた様子を平静で隠そうとしているが、震える手と瞳で微塵も隠れていない。
「――!」
「今、部屋に向かわれています。私たちも行きましょう」
感謝する。
ローズの近くで居たはずなんだ。医者から容態を聞きたかったはずなんだ。それなのに態々俺達を呼びに来てくれた。
言葉にするのは後でいい。今はただ、急いでローズの元へ。
俺とサキさんはお互いに顔を見て同時にうなずくと、駆け足でその後を追ったのだった。
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