第33話 ローズの看病
ミキさん街に医者を呼びに行く間、ローズの看病を入れ替わりで行っていた。
日も暮れ始め夕食の時間になるが、いつも料理を作ってくれるミキさんはいない。どうするのかと思っていたが、カレンさんが作ってくれたようだ。普段の食事と比べて簡単なものだと彼女は言っていたが十分な出来らしく、交代の関係上先に食事を終えていたサキさんはミキさんの料理と遜色のないものだったと言っていた。
しかし、以前ローズは目覚めない。病人用に作られたおかゆに似た料理はもう既に湯気を発することはなく、表面は軽く乾燥し始めている。カレンさんが使った眠らせた魔法の効果も切れているらしいのだが……。
よく考えれば起きてから食事をよそえば良かったが、誰も指摘など出来なかった。
食事につられて目覚めることも残念ながら起こらない。
眠り続けるローズ以上に顔が曇る。
「でも、まだ起きないほうがいいのか?」
耐えきれずほとんど聞こえない大きさでそんな言葉を口ずさむ。
起きてまた発作が起きるとしたらひとまずミキさんが医者を連れ帰ってくれるまでは寝てくれたほうがありがたいのかもしれない。
……いや、元気に起きてくれるのが一番、か。
頭を軽く振って暗い考えより明るい理想を思い浮かべる。
コンコンコン
ノックが聞こえると音もなく扉が開かれる。
「交代の時間です。まだ、食事とってないでしょ。食べてきたらどうですか?」
普段と変わらぬ口調でカナは静かに部屋に入ってきた。口調はそのままでも表情はいつもと比べ物にならない重いものだった。
「うん、――――もう少しいるわ」
「……そうですか」
いつもなら軽口を言い合っていたのに今日は静かだ。
そして、何も会話のないまま時間が過ぎる。それはほんの十分に過ぎないようで、俺にとっては永遠に等しい時間だった。
「もう、行ってください」
「まだ、おなかすいてない」
喉もお腹も時が止まったかのように変わらない。変わるとするのは座り続けたお尻が痛いことぐらい。
「駄々こねないでください。子供ですか? 後々、夜の交代もするかもしれないんですからしっかり食べてきたほうが身のためですよ」
「そういう、お前はどうなんだ? しっかり食べられた顔してないぞ」
「食欲ありませんでした」
二人は横に並び、変わることのない表情で同じ一人を眺めながら乾いた会話を行う。
カナの顔色は優れず、病人だと言われればそう見えるもので、無理しているのがよく分かる。あんなにローズを慕っていたのだ無理もないが。こいつはローズに発作が起こるといつもこんな感じになるのだろうか? だとするなら可哀そうな性分だな。
「なんだ、ケーキでも焼いてきてやろうか?」
「――――」
優れない顔色のまま目は鋭く吊り上がり、まるで鬼のような形相をながら俺をにらんでいる。
「すいません」
降参とばかりに両手を上げる。
本当にすいません。空気読めてませんでした。少し場の和ませようと発言したのだが大きく言葉選びを間違えたらしい。
「早く行ってください」
「分かったよ」
そうして俺はローズの部屋を後にする。ローズの容体が気がかりなのだが、メイドの皆さんもいるし、今はカナが見守っているから安全だと自分に言い聞かせる。
「遅かったんですね」
ダイニングではサキさんが食器を片付けていた。
確かサキさんは皆がローズの看病にかかりきりになるため普通はそれぞれするはずだった家事を一人でしていたはずだ。つまり、凄腕の人たちが四人でするものを既に半分以上一人で終わらせてしまったということ……流石に多少は減らしてたり、簡易的に済ませたのだろうがめちゃすごい。
「私はもう行きますね。まだ仕事が残ってますので」
短く、淡泊に言いたいことだけ言ってサキさんは扉の方に向かう。
一言で表すならスマート。
朗らかでしっかりものの母親的存在がカレンさんで、愛想がないがどこか憎めない妹的なカナとするなら、真面目でクール何でもこなす長姉がサキさんだろう。年齢的に二十歳代後半いくかいかないかのカレンさんが母親役なのは批判が届きそうだが。
「お疲れ様です」
誰もそれを称えないのであれば、俺がそれをするべきだと思った。一言、それで分かってくれる。ただの従者見習いの分際で精一杯彼女を労う。
読んでくださりありがとうございました。
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