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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第31話 違和感

 程なくしてローズとカエル様も出てきた。話を聞くにたまたま近くを通ったから、少しあいさつに寄ったというだけなのでこれくらいが妥当だろう。ちゃんとした話があるのならば事前に連絡は来ていただろう。


 どうやらもう帰るらしい。


 玄関の方に向かって歩いていく後をミキさんとともについていくのだが、何か妙な違和感がある。俺を見る不可解な視線、案内した時と比べ安堵したような様子。


 それが何を意味しているのかは読み取れないが、ローズが元気になって喜んでいると言うだけではなさそうだ。良く分からないが取り合えず今は見送りが優先。


 玄関に着くと少し申し訳なさそうにカエル卿が口を開いた。


「では、今日は当然来てしまい申し訳ない。ローズ嬢はこれからも体に気を付けてくだされ」


「とんでもない。これからもお願いしますね。では。カエル卿も歳なんですから体には気を付けてくださいね」


 笑いあいながらローズは見送っていた。


「じゃあ、私は書斎に戻るわね」


 扉が閉まりきると笑顔が剥がれ、少し疲れた顔が現れる。

 

 あれほど楽しそうに過ごしていたように見えたが、やはり、それなりに偉い人と話し合うのは大変らしい。恩があることで無下にも出来ないということか。


 人付き合いは大事だと思うが、王女様くらいになると庶民の人付き合い感覚で人と気楽に話すことも多くないだろう。


 ――だからこそ俺がローズの息抜きとして置いてもらう事になったのかもしれない。

 

「では、レン君。ここを引き続き掃除しましょう。途中で止まっていましたが人も多く出入りもありましたし初めからですよ」


「はい、頑張ります」


 積み上げたものを崩す、一度進めたものを最初からやることほどやるせないことはないが、ほかならぬミキさんが言うのだから仕方ない。


 一から掃除を始めて間もなくしたころ。


「レン君、気を付けたほうがいいですよ」


 ミキさんが掃除の手を止め眉間に皺を寄せ、怒っているような、悩むような表情で突然話しかけてきた。


 普段とは珍しい表情に無意識に背筋を伸ばしてしまう。


「な、何にですか?」


 突然のことに少し驚きながら何のことかと考える。今あったことと言えばやはりカエル様が来たことだが特に思い当るところがない。


 もしかするとこの世界特融の無礼なことを気づかずしてしまっている可能性はあり得るが……。


「カエル様は君のことをずっと見ていましたよ。何もないといいのですが......」


「何か礼儀知らずなこと、してしまったんですかね? 気を付けていたつもりだったんですけど……」


「分かりません」


 あの奇妙な視線。俺を見るってことがそっち系の話? でも、多分違う。もっと嫌な感じ。はっきりとは分からないが……、こんなにミキさんが警戒するカエル枢機卿は一体何者なんだ?


「カエル様ってなんかヤバいうわさでもあるんですか?」


「いえ、カエル様は孤児院も経営なされていて、国民の評判のいい慈愛の持った素晴らしい人です」


 内容は敬意を感じさせるものだが、ミキさんの表情は相変わらず何か暗いものを考えている。孤児院育ちの俺にとってはすごくいい人に思えるし、国民からも評判もいい人。逆に少しくらい悪いうわさがないのは少し怪しいくらいか。この世界に誰にもねたまれず、まっとうに生きている人もいるだろうか? 


「じゃあ何をそんなに気にしているんですか?」


「……。あの目が気になるのです」


「目ですか?」


「そうです。私は皆さんより少し長く生きている分多くの人と会う機会がありました。その中で今のカエル様と同じ目をした人を見たことがあるのです」


「それって一体どんな人だったんですか? 」


「それは――――」


「すいません、ミキさんちょっといいですか?」


 ミキさんが答えようとしたその時。何の因果かお約束だか知らないが一番大切なところで遮られた。


 廊下からカレンさんがやって来たのだ。急いでいたのか、軽く息が上がっているのが分かる。表情からして深刻な何かが怒ったようだが何があったのだろうか?


「分かりました。今向かいます」


「ミキさんその人って……」


 いいタイミングではないことは分かっている。しかし、今聞いておかなければ行けない気がしてならなかった。


「その話はまた今度ということで。私の気のせいかもしれませんし、嘘半分真半分で覚えていて下さると助かります。向かいましょう」


 当然の反応。答えは帰ってこなかった。夜にでももう一度聞いてみれば良い。今は起こった何かを知ることが先決だ。


「は、はい」


 頭を切り替えて室内を小走りに移動する。


 掃除姿のまま二人はカレンさんの後を追ったのだった。

読んでいただきありがとうございました。


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