第29話 突然の来客
昼食も済ませた俺は、玄関広間の掃除を手伝ってた。
昼の温かな気温と食後の血糖値の上昇によって意識は無意識に霧散し、眠さは脳の速度を低下させている。しかし、やると決めたことはやらなければいけない。
「結構広いのにここ分担、普段一人なんですね~」
「そうですね。結構時間はかかりますね」
返答するのは俺のミキさんだ。眠そうな雰囲気は微塵も感じさせず、無駄なく掃除を進めている姿は本当に執事の鏡と言っても差し支えない。
よくよくこの部屋を見渡すと、壁の誰が描いたともしれない絵も、シャンデリアも、絨毯もすごく綺麗に飾られている。まるで買いたての新車のようにピカピカだった。こういう綺麗に保つ労力は大変なものだと知っているが、この屋敷の規模でこれをこなすとは本当に先輩たちには頭が上がらない。これからはカナもしっかりと尊敬しようと思う。
すると扉の呼び鈴が鳴った。今日は誰か客人が来るとは聞いていなかったのだが。と言うか客人が来るのはローズの姉妹であるアネモネさんを除けば初めてだろう。そう思いミキさんの方を見ると扉の方にすぐ向かっていた。
俺はどうせ出来ることもない、邪魔にならないよう手すりの拭き掃除を続けよう。
扉を引くとそこから現れたのは何とも宗教臭い装いをした中年の男性だった。髪は短髪のくらい青色で、少し白髪が見え始めていたが、引き締まった顔つきに鋭い眼光は微塵も老いを感じさせない。目指すべき中年男性と言った様子。
「突然すいません。たまたまこちらの近くを通りましたのでローズ王女に挨拶をと思いまして。……お加減はよろしいでしょうか?」
「これは、これは、カエル卿。わざわざありがとうございます。ええ、最近また発作がありましたが。―――そう、そこの彼がここに来てからめったに起こらなくないました」
二人だけで真剣な話をしていると思うとこちらに話が飛んできた。
話の流れ的に医者か、精神安定を促してくれる先生なのだろうか?
拭き掃除の手を止めて、近づいていくと静かに頭を下げる。
「こんにちは。鈴木蓮と言います。どうぞお見知りおきください」
無難な口上をしてみたが、これで良いことを願う。
服装からして多分偉い人だと思うが、いかんせんどんな風に立ち振る舞えばいいのか分からない。この世界が中世ヨーロッパっぽい所から宗教関係の偉い人はすごく強い力を持ってることが多いイメージがあるため、敬意だけは払うようにしなければ。変に気に障って魔女狩りだ、異端審問だと言いがかりを付けられてはたまったものではない。
「そうかしこまらずとも大丈夫ですよ。私はこの国で枢機卿をしております。カエル・フレグルと言います」
言葉とともに手を差し出してくる。
枢機卿……、あまり詳しくはないが西洋宗教で権威の非常に高い位の名称だったはず。俺の知識がどこまでこの世界で適用しているのかは定かではないが、偉い人に違いない。
しかし、彼の振る舞い、物腰は柔らかで、恐れていたイメージが直ぐさま払拭された。
「よろしくお願いします」
握手を交わしている間、嘗め回すように見られた気がする。もしかしてこの人実はそっちの趣味があるのかもしれない。別にそれがどうこうとは思わないが権力者、枢機卿ともなれば無理やり関係を迫れそうで、また別の恐怖が湧いてきてきそうだ。
「では、ローズ様をお呼びしてきますので、少し部屋でお待ちください。ではレン君客間まで案内をお願いしますね」
「……はい」
ミキさんはそう言い終わると少し急ぎ足でローズがいるであろう執務室に向かっていく。こんな状況で二人っきりなのはいろんな意味で怖いが、任された仕事なので精頑張らなくてはいけない。
「では、こちらです。お荷物などは……」
「いえ、結構です。レンさんと言いましたか、あなたは最近こちらに来られたんですか?」
「は、はい。いろいろありまして……こちらでご厄介になることになったんですよ。本当にローズ様にはなんと感謝をすればよいか」
「彼女は優しいお方ですからな」
「はい……」
何ともぎこちない会話があり、凍てついた空気の中、俺は部屋が遠くにあることを恨みながら廊下を歩いていく。
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