第27話 倉庫の掃除で
「すいません、遅くなりました」
「いえいえ、お嬢様から呼び出しがあったのですからお気になさらず」
ミキさんの掃除を手伝う為に、普段使っていない物置に来ていた。本来ならば初めから一緒に行うことになっていたのだが、どこかのわがまま姫の所為で遅れてしまっている。
「では早速、取り掛かりましょう」
「はい」
ここは屋敷の物置の一つ。使用頻度で言えば年に二、三度使うことがある道具たちが置かれているらしい。もう少しよく使う物やもっと使う機会の限られている物の物置と、この屋敷には全部で三つの物置がある。無駄に広い屋敷だと思っていたが、使用用途に分けて仕舞うなど無駄のない管理はされていることに驚かされた。
軽く回りを見た俺は口に布巾を付け、手には手袋をはめ戦闘態勢はばっちり。この物置に来るのは初めてだが、ほこりがそこまでかぶってないところを見るに定期的に掃除がされているようだ。
そこには樽や農具などの日用品から剣や鎧、杖やローブなどなんとも物騒なものまで置いていた。
「なんかすごいですね。これ、とか」
触るのが怖いのでそっと指さしたその先にはひときわ目立つ杖が置いていた。杖の先にはぼんやりと光る宝石? 半分は赤色でもう半分は青色なへんてこなものだが、俺の元厨二病センスは感じていた――、この杖の恐ろしさを。
「ああ、これはお嬢様の杖ですよ。作ったばかりなのですが、あまり使われておりません……」
「なんで使ってないんですか? すごく強そうなのに」
「……いろいろありまして」
「へー」
興味は尽きないが今は仕事が優先。
パタパタとほこりを落とし、ゴミを掃き、あちこちを拭きまわる。俺は掃除が案外好きなのだ。こう汚れが落ちていきどんどん綺麗になるさまはいつ見ても素晴らしい。暇さえあれば掃除の事を考える一種の変態ではないが、日常にあって困ることはないと思う。
「なかなかの腕前ですね。これなら他も任せられるかもしれません」
「そうですか、いや―そんなことありませんよ」
お世辞も含まれているだろうが、それでも褒められれば嬉しくなる。手の動かす速度も上がるというもの。
そんなこんなでこの物置は二時間とかからずにピカピカになったのだ。元がそこまで汚く無かったため違いはさほど見られないが、達成感は十分だった。
「丸一日かかるかと思っていましたがこんなにも早く終わるとは思いませんでしたよ」
流石にそれは言い過ぎだ。ミキさんの手つきを横目で見た感じだが、彼一人でも三時間とかかるまい。どれぐらい掃除をしてきたのかは知らないが、効率と技術はこの国一と言われても驚かない。
「次はどうしますか?」
「そうですね、昼食の際に教えますのでそれまでは休憩にしましょう」
「分かりました。ミキさんはこれからどうなさるんですか?」
「昼食の用意までは時間がありますし……」
予定では午後まで掃除は行われるはずだった。俺だけでなくミキさんも空き時間が出来るとはありがたい誤算。
「じゃあ、また紅茶の入れ方教えてくださいよ」
「ほう、いいですね。では、給仕室に行きましょう。この前はあなたの部屋でしたので教えられることは限られていましたから」
「ありがとうございます。着替えたらすぐ行きますね」
これでまた紅茶の極意を教えてもらえる。この世界に来て俺は紅茶に少しハマりつつある。正直言うと緑茶の方が好きなのだが、ないのであれば致し方ない。
記憶によると緑茶も紅茶も同じ茶葉から作られるという話を聞いたことがあるため、この世界では飲めないなんてことはないのだろうが、この国では一般的ではないらしい。
紅茶はそれだけで沢山の楽しみ方もあって娯楽にもなるのがいい。自分で良い紅茶を入れられるようになることも立派な趣味になるだろう。いつかはミキさんを唸らせる一杯を入れてみたいものだ。
そんなルンルン気分で部屋に戻ろうとしていると――。
「あんた何してるの……」
お嬢様だった。また、嫌なタイミングで誰かに出会う。
その表情は何か気持ち悪いものを見たかのようなものだが、一体何を見たというのか。
「なんでもない……。それより今朝はなんで呼び出した張本人がいなかったんだよ」
「はあ、だから居たから」
「……分かったよ。勘違いだった」
呆れたような顔はとてもウソをついているようには見えないが、あの部屋にいなかったのも事実。しかし、終わったことだ。これから先は無駄な押し問答、これ以上は踏み込むのはやめておこう。
「で、何しに行くの? それとも何かいいことでもあったの?」
先の俺の楽しそうな姿から様々な妄想を膨らませている様子。
「ミキさんに紅茶の極意を教わりに行くんだ」
「ああ、そうなんだ。そうだ私も見に行ってもいい?」
「見に来るって一緒に教わりたいのか? いや、そもそもお前今日は昨日の増やされたお勉強がまだ残って」
「――終わった」
「え?」
あまりの速度と剣幕に聞こえたはずの言葉を聞き返す。
「終わったからいいーの」
「あの量を? この朝だけで?」
「……うるさいわね。いいから」
その反応は明らかに偽りのもので、しかし、それを正すことは許さない気迫尽き。王女様らしい横暴だった。
「不良王女」
「不敬ね。私は構わないけど、外出先とかでは言わないでね」
済ました笑顔で真正面からの皮肉を受け流して、ありがたいご忠告までしてくれる。
「分かってます。それじゃ、俺は行くから」
「いや、私も行くから」
ローズの横を通り過ぎようとしたのだが、どうにも本気で付いてくるつもりらしい。
「本当に来るのか?」
「行く。味見よ、味見。そういう味の意見を言う人がいたほうが勉強になるでしょ」
そう言いながらウインクをする姿は残念ながら可愛かった。言い分も悪くない。どうせ何を言ってついてくるだろうし、諦めも肝心だ。
「……そうだな。給仕室、俺は着替えてから行くからどうぞお先に」
俺は部屋に戻り、少し早く服を着替えて給仕室に向かう。心の何処かで部屋の前で俺を待ってくれていることを想像していたが、お姫様は当たり前のようにいなかった。
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