第26話 器用裕福
今朝はいつも通り皆と朝食を食べた後、ローズに呼び出されていた。
「はあ、いったい何の用なんだ? 折角少しずつ仕事もらえ始めてたのに……」
つい、溜息とともに愚痴が溢れる。
呼び出されるまでは、ミキさんから今日は掃除を手伝ってほしいと頼まれていたのだが、それもなくなってしまった。お嬢様パワーだ。
目の前にはローズの自室の扉。彼女の執務室の扉しかり、そこはかとなく厳かな造りだ。年頃の女性、それも王女様の部屋、何度か出入りしているが未だに入ることに躊躇してしまう。
一応身だしなみを整え、意を決してコンコンコンとノックし、部屋に入る。
「失礼しまーす」
「はいはい、どうぞ」
声とともに扉が開く。
…………。
それだけではない、開いたのはもう一つの大輪の花。
腰まで伸びた長い髪。瞳と同じ青い色は空と海を想起させる遠大で雄大で広大な色。
「アネモネさん!? えっと、ローズは、知りません?」
確かローズは食後、何故か一足先に室に向かっていたはず。一緒に向かっても別に構わないだろうにと思っていたが、彼女に合わせるため? でも、なぜ。――いや、それにしても、綺麗な人――だ。
「? いいからそこに座ってね」
「はい!」
言われた通りに促された椅子に座る。彼女は対面の席に腰を下ろす。スカートを踏まないように抑えるところとか、その座るという動作の一挙手一投足が魅力的で心が……魅了されていたことに気が付いた。
このペンダントの力によって正気に戻れたらしい。やっぱり、魅了されている最中は気分が良いが、それに気が付くと真逆の気持ちになる。
「どうかしましたか?」
「……何でもありません」
ふーっと一度呼吸を整える。肺に入れた空気を入れ替えればかなり気持ちは落ち着いてくれる。
言われた通り、彼女を直視しないように心がける。代わりに飛び込んで来るのは部屋の外観。ローズの部屋は、こうまじまじと見たのは初めてだが、きれいに整っていて豪華すぎない、なんともお嬢様らしからない部屋。
「呼んだ理由なんだけど……、貴方が何を学ぶかそろそろ決めてもらおうと思って」
「魔道を学ぶか剣術を学ぶかのやつですよね……」
「自分に合う方、か好きなほうを選んでいいと思いますよ」
異世界お決まりの剣と魔法。今更ながら本気で俺は護衛を出来るように鍛えなければいけないことに直視する。
ビシッと敵を切り倒し、まさに騎士のような剣士。いや侍のようなものもあるかもしれない。これは漢として惹かれないわけがない。が、人々が憧れる未知の力、魔法も捨てがたい。俺は実は幼いころに読んだ魔法使いの本の影響で、空を飛んでみたいと夢見た時もあったのだ。
俺は一体どっちを選べばいいんだ? 両方はダメなのだろうか? 魔法と魔術を両方とるんだし、こっちも両方すれば魔法剣士みたいでカッコいい気がしてきた。
「魔道と剣士どっちも学ぶのって駄目ですか?」
駄目で元々。聞くだけならタダだ。後で実は出来たと知れるよりは何杯もいい。
「両方ですか!?」
紅茶を飲んでいたアネモネさんは思わすカップを口から離す。
「なんか、魔法剣士って強そうじゃないですか……」
「言いたいことは分かります……でも、どちらか絞ったほうが絶対極めるのに向いてますよ」
そう、そこなのだ。いくらどっちも頑張ろうとも、器用貧乏になりかねない。まだ魔法と魔術はおなじカテゴリーなので可能かもしれないが、剣士と魔導士は明らかに別物だ。
普通に考えれば一対一の戦闘で二つを極めたものと、一つだけを極めたものならどちらが勝つかは正直一つのほうがする。本当の強者ならどうにかできるかもしれないが……俺のようなド素人ではまず難しいだろう。だが俺は――――――
「いいんです、俺は頑張ってもそこまで強くなれない気がするんです。結局才能がある人が英雄と言われるほど強くなれるんですから。なら俺は無力でもいい、だからいろんなことができるようになっていたいんです。例えそれが、器用貧乏って笑われても」
「―――分かりました。ではそう伝えておきますね」
それを聞いたアネモネさんは何かを言いかけたのをやめ、あきらめたように笑いそう言った。
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