第22話 王女の普段
洗濯物を干し終えれば直ぐに昼食の時間になり、数時間ぶりのローズとの再会となった。
今日は体を動かして疲れたせいなのか、お腹も普段より減っていてすぐに食べ終えてしまう。カレンさんを見習うなら、どこか手伝いに行くべきなのだろうが、もう少し休んでいたい気分。
まだローズは食べている。言動に反して丁寧で品のある仕草。まさしく、お手本にしたいテーブルマナー。俺には一生できない。毎日そんな事を気にして食べていたら、食事が楽しくなくなりそうだ。いや、それが普通になるほどに行っているのだろうか。生活まで整えてしまう王族とは大変だ。
生活……。
このまま彼女の食事風景を観察し続けることも悪くないが、好奇心を満たすことも悪くない。
思い切って静寂を止める。
「ローズってさ、普段何してんだ?」
「何急に? どうしたの?」
前々から気になっていたのだ。学校に行っているようには見えなかったし普段はどうしているのかと。単純に王女の一日とやらに興味が湧いている。
「いや、ただ気になっただけだ。どうなんだ?」
「そうね、勉強と読書がほとんどね。たまに屋敷を抜け出してぶらついてるけど」
勝手に抜け出したりしてたのか……。
抜け出すことは置いといて、屋敷から何処かに通っているようすは見ていない。となれば、勉強はここでしているということになる。中世の教育は家庭教師が一般的とは聞いたことがあるような、ないような。
「王女様って勉強するんだ。何を学んでいるんだ?」
「王女を何だと思ってんのよ。王女でも勉強はします。主にこの国の歴史と他の国の歴史。それに政治、軍事について。後は常識的なことを一通り学んでいるわ」
「へー」
至って普通。王女といっても第三王女。次期国王候補でもなければ、そこそこ余裕のある生活が遅れるのだろう。この暮らしをそこそこ呼ばわりは市民に悪いか……。
しかし、基本執務室に籠もっているところを見るとそれでも大変そうなことに違いはない。王女に生まれた気苦労を考えればこういった生活は釣り合いは取れている、と思いたい。
話は気になった勉強を教えている人の話に。
「そういうのって外から教えてくれる人が来ているのか? 見たことないけど」
「ああ、それは全部このミキが教えてくれてるのよ。どう、凄いでしょ」
「恐縮ですが」
食事を作り終えてローズの背後に控えていた本人が声に慎ましく反応する。それに比べて主人として鼻が高いのかローズの方が胸を張っている。
他に言いたいことはあるが、こうして自分の従者の事を誇らしげに語る姿は嫌味が全くなく、良い主人に見える。
だが、まさか一従者が王女の教育係も兼ねているとは……。
「よ、さすがミキさん」
本当に何でも出来る人だ。王女の執事として身に付けた能力の数々だろうが、その能力を持ったまま他の仕事に付いていたらどうなっていたのか、もしもの話が気になってしまう。文官、は向いていないな、教師か小料理屋の店主なんてやっていそうだ。
そして昼食も済み、ひと段落がついた。今回もローズは直ぐに席を立ち上がろうとはしない。
「ねえ、私の護衛なのに、全然私の近くに付いていないのって変じゃない?」
「お前も結構唐突に話を振って来るな……、俺もよく分からないけど、屋敷の中が安全だからだろ? 多分外出時はついていくんじゃないのか? そもそも、これまでいなくてもうまくやってきたんだろ? いるか、俺?」
「…………」
ちゃっかり護衛の話を流そうとしたが、受け入れられなさそうだ。
どこか機嫌が悪そうな表情。何もおかしなことは言っていないはずだが、不満は大きそう。初めて俺が屋敷に来た際に、自分は強いだのなんだのと言っていた彼女はどこに行ってしまったのか。
「いや、でもほら俺まだ全然戦えないし、ね」
「そうよ、結局どうするの? 魔導士になるのそれとも剣士? どっちでもいいから早く決めなさいよ。私は剣士がいいと思うけど……何でも良いわよ、何でも」
凄く何でも良くなさそうだ。剣士になって欲しいらしい。
「剣士か……それ、あのおとぎ話の男が剣士だったからじゃないのか?」
「か、関係ないわよ!!」
理性を吐き出したような大きな声。誤魔化し方が乱暴過ぎる。こんなの答えを言っているようなものだ。
でも、今日は少し声が小さかった? それか、この数日で俺の耳の鼓膜が少しずつ鍛えられてきた気のか……。
一先ず話を変えよう。このままでは無理やり答えを剣士に決められそうだ。
「それよりもお前、ペンダントアネモネさんに返させただろ。遅れるのはともかくそういうのは自分で返してくれよ」
ちょうどいい話の話題があって助かった。あんな俺のこれからを左右するような事柄はじっくりと時間をかけて考えたいんだ。一応こっちに選択肢を委ねたからには、自分の意思を優先させてほしい。カッコいいのは剣士だが、誰もが憧れる魔法を使ってみたくないのかと聞かれれば答えは当然YESだ。
「レンまだ気づいてなかったの……あれが私って―――まあ、こっちのほうがおもしろいか」
「――っと、何ぶつぶつ言ってるんだ?」
少し考え事に意識を取られて、ローズの言葉を聞き逃す。小さな声だったが独り言のようで、繰り返してくれる気はないらしい。
「あーはいはいすいませんでした。これでいい?」
誠意の無い謝罪。改めてもらっても、これ以上のものはもらえないだろう。諦めるのが賢い選択。
「……はぁ。じゃあそろそろ俺はちゃんともらえた仕事をしに行くとするよ。やっともらえたのにサボってると思われて、無くされると困るからな」
疑問はある。昨日まではあんなに嫌がっていた? と言うか変な理由を付けて断っていた仕事を急にこれからさせてくれるなんて……。考えても俺だけで答えに辿り着けはしない。取り合えず任された仕事を頑張るしか今できることはない。
任されたのは花の水やり。
凄く誰にでも出来そうだ。
こんなことを仕事と言っていいのか疑問だが任されたからには全力でやり遂げる。
そうはいっても、水やり……流石にまだ信用はされていないのかもしれない。最低限の技能は持っていると思うのだが……。
水やり頑張ります。
読んでいただきありがとうございました。




