第21話 キッチンに運ぶまでが買い物
ここまで来ていただきありがとうございます。
「はぁ、はぁっ、……これで全部ですか?」
息も絶え絶えで尋ねるのはあれから十数件店を梯子した後の事だからだ。こういう買い物は一気に買い溜めするらしいが流石に六人の量は半端じゃなかった。しかも、途中から荷物を持ち始めてくれたカレンさんは俺より多く重い荷物を持っているのに顔色一つ変えてない。実は凄い人なのかもしれない。もしくは俺が貧弱なだけか。
「そうよ、あとは帰るだけだから頑張ってね」
「はーい」
買い物をしていくうちにかなり屋敷から離れてしまっている。
ここから屋敷まで三キロぐらいあるが無事にたどり着ける気がしない。
「いつも、一人で買い物してたんですか?」
俺が手伝っているということは本来は割かれる人員がいなかった可能性が高い。残念だが俺ではまだ誰かの代わりは務まらない。ものを運ぶ程度なら出来る、と思いたいが。
「そうね、手が空いている人が一人でしてたわね。でもこれからは二人になってかなり楽になりそう」
「頑張ります……」
本当に今までこの量を一人で持ってきていたのか……恐るべし。俺の量が増えているとはいえ、この世界は一般人でも優れた肉体を持っているのかもしれない。
「どうかしたの? もう少し持とうか?」
「大丈夫です。これ以上は俺の沽券に関わりますから。……あの大きさの屋敷でこの人数ってどうなんですか?」
前々から気になっていた。屋敷に在中している使用人の少なさに。メイド三人、執事一人。普通ならあり得ない。よく屋敷が運営できているものだ。王女様ぐらいだから数十人近くいるのが普通なのかと思っていた。
護衛も付けず、お城のお膝元とはいえ、不用心にも感じる。
「王城にいた頃は側付きが十数人はいたんだけど、お城の仕事も大変で全員はこられなかったの。屋敷に移るにあたってお仕事ができて、お嬢様と仲が良かった私たちが選ばれたの」
「へー、みんな優秀な人だから屋敷も回っているんですね。俺本当に必要ですかね……?」
「ありがとう、あなたもこれから頑張って頂戴ね」
まだまだ若そうなのに母性あふれる人だ。優秀だし、人付き合いも上手にやってのけていた。ローズが選んだのも頷ける。
それはそれとして、歩く足が早い。
そうやって、間に少し休憩を挟みながらやっとの思いで屋敷まで帰ってきたのであった。まだ時間的には昼頃なのだが相当に疲れた。荷物を運んできた肉体的にもそうだが、知らない人と距離感の近い会話はそれなりに精神的に疲れる。ベッドに飛び込んで眠ってしまいたい……。
「はい、キッチンに運び込むまでが買い物よ最後まで頑張って。ほら」
カレンさんは遠足は帰るまでが遠足みたいな言い方してる。しかし、ここまで来たのだ最後の最後まで気は抜けない。再び全身に力を込めて動き出す。
永遠にも感じる数十メートルを超えて貯蔵場所に辿り着く。
「ふー、やっと終わった」
「はいはい、お疲れ様少し休んでなさい。私はミキさんとお嬢様に帰ったって伝えておくから」
「ありがとうございます」
流石に寝ては怒られそうなので軽く顔でも洗ってこよう。それにしても暑かった。この世界に季節はあるのかは知らないが、今は程よく熱い気候なのだろう。
洗面所へと向かう。屋敷の洗面所は使用人専用の場所でも学校の無駄にデカいものより大きくそれなりに豪華だ。どれだけ水を跳ね飛ばそうが、変なところが濡れることはない。
「ああ、帰ってきていたんですか。お疲れ様です」
そう言うのは、大きな洗濯籠を持ったサキさんだった。水場は基本同じ場所に密集している。手洗いするものを洗い終えたのだろう。当然洗濯機なんてものはないから、洗濯は大変だ。
「はい、今帰ってきました。ちょうど顔でも洗おうと思いまして。……洗濯物ですか?」
「いい天気ですから、今日は干そうと思いまして」
「手伝いますよ」
「ありがとうございます。ではお願いします」
顔を洗うのは後だ。買い物でへとへとだが、そんなことは忘れて手伝おう。ただでさえ出来ることが少ないのだ、手伝えるものは手伝いたい。洗濯物を干すことぐらいはしてみせる。あまり役に立てていない分しっかり頑張らないと。
干す場所は庭の一角。周囲に日を遮るものはなく、干すのにうってつけの場所だ。
「本当にいい天気ですよねー」
「そうですね」
微妙に口数が少ないのがサキさんのチャームポイントだ。気が楽でいい。そしてこの青い太陽? か分からない恒星はいつ見ても慣れない。一日の長さや、軌道も大体地球と太陽と同じようだがどうなってるんだ? そもそも違う惑星? 太陽系内は流石に調査され尽くしているし、違う銀河? それとももっと超常的な……。
「あれ、レン君手伝ってたの? 休んでよかったのに」
洗濯物の影からひょっこりと背の高いメイドさんが現れた。
「あ、お疲れ様です。カレンさん」
そして、カレンさんも加わり三人で洗濯物を干していく。そうすれば、直ぐに洗濯籠は空になる。
ちなみに普段一つの家事に一人だが、今日カレンさんが手伝いに来たのは買い物のため次の仕事が割り振られていたのが午後からだったかららしい。空いた時間まで仕事を探して手伝うとは……。休めばいいのに……これが選ばれた理由か。仕事熱心な人だ。
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