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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第20話 不思議な少年

ここまで来ていただきありがとうございます。

 買い物。現代の日本では一般的にはスーパーマケットを利用して、購入目的の品をその一店舗で揃えることが多い。近くに多くの商店があれば、一円でも安い場所を選りすぐることも出来るが、面倒さと天秤にかけてどちらに傾くかはその家計によるだろう。


「カレンちゃんいつもご苦労様」


「いえいえ」


 そう話すのは三件目に寄った肉屋さんでのことだ。これまでの店もそうだったがみんなカレンさんと仲がいいらしい。


 寄ったどのお店も街道沿いに展開された出店であり、いわゆる商店街のような場所だろう。店員とお客の距離が近く、数日通えば顔見知りと認識されるだろう。


 特にフランクな人であれば初めて出会っても声をかけてくる。


「おや、見ない顔だね。新入りかい?」


「そうなんです、こちらはレンといいます。新しい使用人でお嬢様の執事を仰せつかっています。と言ってもまだ見習い程度なんですが。よくやっていますよ」


「レンと言います。よろしくお願いします」


 先輩からの紹介に続いてペコリと頭を下げる。ちなみに荷物は率先して持たせていただいているのでもう両手がパンパンだ。正直これ以上はそろそろ限界だった。


 日差しも強すぎはしないのだが、長時間浴びていると暑くも感じてくる。


「力持ちだねお兄ちゃん! よろしくね」


 この商店街には感じのいい人が多い。ローズのお屋敷がいいお客であることを抜きにして、他のお客さんへの対応なども丁寧で温かく見える。この辺りはとても過ごしやすそうな立地だと思う。


「では、ありがとうございました」


「また来てねカレンちゃん、それとお兄ちゃんも」


「ありがとうございました」


 流石にまだ名前は覚えられなかったようだ。もう二、三度顔を売ってお兄ちゃんは卒業したいところだ。今日の買い物しゃべっていたのカレンばかりだったし、次は俺からも声をかけたい。そうして、次は必ず覚えてもらう。


「…………?」


 人影の奥にチラリと見覚えのある顔を見かけた。この世界に来た時に初めて会った男の子。屋敷にずっといて外出も施設と道場で会う機会はずっとなかった。起こしてもらっておいて悪いが、忘れていたぐらい。あの時のお礼も兼ねてここは俺の現状を伝えるべきだろう。


「どうしたの? 何か面白いものでも見つけたの?」


 俺の目線に気が付いたのか、カレンさんはそう声をかけてきた。


「いえ、この街に来た時に親切にしてくれた子がいたので……」


「そうね……、なら少し休憩にするから会ってきたら?」


 カレンさん少し考えたあと、そう笑って許可をくれた。本当に優しい人だ。


 カナだったら絶対くれなかった。『直ぐにローズ様の下に買えるんですから、急いでください』とか言いそう。


「! ありがとうございます、ちょっとだけ話してきます。すぐ戻りますから」


 時間もそんなにあるわけではない。急いで少年の影を追うように駆け出した。荷物を両手に。




 人の群れを乱さないように慎重に急いで超えていく。見たことのある背格好を再び捉えた。見間違えではない本人だ。丁度相手もこちらに気づいたのか、目を見開いたかと思えば手を降ってくれる。


「おっす!」


「あれ! あの時のお兄さんじゃないですか。どうしたんですか? その様子じゃ元気にやってる風に見えるんですが、やっぱり道に迷ったとかですかね」


 執事服に特段驚く様子もなく淡々と話すのは、俺と初めて会った時と何ら変わらない姿の将来有望そうな少年フユだ。


 変わりない。ボロボロの格好も、汚れた格好も、輝いている瞳も。


「いや、そこでお前を見かけたからな。一声かけて行こうと思って」


 一つ聞きたいことがあったのだ。


「顔に見合わずいいとこあるんですね」


「何言ってるんだ俺の顔にはいいとこありまくりだろ? 当たり前のことはどうでもよくて、お前最近どうだ?」


 抽象的な質問だが、それぐらいがお互いの距離。


「そうですね……別に何ら変わりありませんが。―――急にそんなことを聞いてくるなんて怖いですよ。僕に何かするつもりなんですか? タスケテーオマワリサーン」


 表情をコロコロ変えてはしゃぐ様子は年相応の少年で、もっと違う環境であれば、とありえない未来を想像してしまう。


「ははははっ、その辺にしとけよ。別に取って食うつもりはない。……その、あれだ、もし今の状況をどうにかしたいって思っているなら、うちで雇ってもらえるか掛け合ってみるんだけど。どうだ来ないか? 絶対雇ってもらえるって確証はないけど、さ……」


「うーん、ありがたいお話なんですが。大丈夫です」


 目を瞑り腕を組んで考えている風を装うが直ぐに答えは帰ってきた。どこか予想できたもの。


 全く微塵も迷うことのない言葉だった。


 彼にも彼なりの生活があって、今はそれに満足しているのだろう。


 踏み込み過ぎだと分かっている。だけど、もう一声だけ。


「……。何も知らないし、文字も読めなかった俺でも雇ってもらえるくらいだし。結構変わった人だけど、凄く良い奴なんだ。多分、そこまで迷惑でもないぞ?」


「いえ、本当に大丈夫なんです。案外暮らしていけますし。見てくださいこの体を。服は前と同じですがそれ以外は別に汚くもありませんし、やせ細ってもいません」


 言っている内容は正しい。だけど、病的までにガリガリではないが、普通の少年にしては痩せているし、汚れているのだ。


「そうか……」


 分かっている。俺の考えは偽善で、自分が嫌な気持ちをしたくないだけの独りよがり。


 でも、こんな子供がこんな暮らしをするのは、間違っている、と思う。


「本当に優しい人なんですね。では、いつか本当に困ったらその時はお願いします。それでいいですね」


 表情に出しているつもりはなかったが、この少年には見抜かれてしまったみたいだ。


「分かった、じゃあしっかりやれよ」


「お兄さんもね」


 今は折れておこう。今の俺はローズの使用人見習い。あの提案もローズに断られた可能性だってある。

それに、フユにも事情があるのだと思う。予想では恐らくあいつは面倒を見ている自分より若い子供たちがいる。そいつらのために離れることができないと見た。……。違うか。


 何にせよいつか無理やりにでも連れ出してみんないい暮らしをさせてあげたい。実は想像以上に大それたことかもしれないが、ここに来て初めて手を差し伸べてくれた人を助けたい気持ちは本物だ。


 そうだ、もし元の世界に帰れなければ孤児院でも開いてみても良いかもしれない。


 ふーっと息を吐いた。


 俺は両手に持った荷物を改めて握り直す。そして、早足にカレンさんのもとに帰っていった。

読んでいただきありがとうございました。

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