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無力の英雄  作者: 覡天狐
第一章 ~二輪のバラ~

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第19話 俺の人生初デート

ここまで来ていただきありがとうございます。

「朝早起きしていたから少しは見直そうと思っていたらこれですよ」


「ごめんなさい」


 食事中にお説教されるのは辛いものがある。さっきもさんざん謝ったのに……。慣れない早起きのつけがこれだ。


 早起きしたらそりゃ眠くなるでしょ。すいません。


「あなたのせいで、食事が少し遅れたんですよ、もう、しっかりしてください」


「はい、猛省します」


 プンプンという擬音が似合う怒り方。俺を起こしに向かわされたことが余っ程、腹に据えかねているらしい。普段はない仕事を増やされたのだ、当然と言えば当然。


「先に食べててもよかったのに……」


 こちらに百パーセント非があるため、言える言葉といえばこれだけだった。


「こんなのほっといて食べましょうって私も言ったんですよ。寛大なローズ様が呼んで来てっていうから向かいましたが、本来ではありえません! 全く、優しさに感謝しなさい。後、私の優しさにも」


「はいはい、感謝感謝」


 仏にでも祈るようにカナに向かって祈る。そんな行為に対してまたもや文句を沸き立たせているようだが、もう構うこともない。食事の時間が伸びてしまう。


 その様子を静かに見つめるお嬢様は優雅に食物を口に運ぶ。





 食事は終り、食器が下げられても席を立つものはいない。解散は基本ローズが席を立てば自ずと行われるのだが、今日は時間に余裕があるのだろう。


 食後の紅茶が運ばれてきた。この香り高い紅茶はミキさんが入れたものに違いない。


「二人とも本当に仲いいわね。兄妹みたい」


 お茶請けはさっきのやり取りらしい。


 個人的には口論とも思しき言い合いだったが、王女様からすれば可愛い痴話喧嘩にでも見えていたのかもしれない。目が悪いのであれば早めに眼鏡をかけることをおすすめする。


「こんな奴と姉弟って間違われると一生の恥になりますから勘弁してください。ローズ様と姉妹に間違えられたいです!」


 とてつもなく嫌われたものだが、誰かと血が繋がっているように思われるってことは良いことだと思う。


「一生の恥って……俺はまあ、兄妹はいてもいいと思うんだけどな」


「え゛」


「一文字で嫌さを表せないでもらえるか……」


 施設ではもう俺が最年長者で、多くの年下の子がいて、こんなカナみたいな女の子もいた。その子には世話をされていた感も否めないが、みんなにお兄ちゃんとか、兄に準ずる呼び方をされてて、でも、多分みんなを兄弟とは呼ばない。呼べなかった。みんなもそうだと思う。家族ではあった。そう呼んでいた。


 施設で育った者にとって血の繋がりはどこか憧れのようなところがある。逆に嫌っている者もいるが、俺はそうだった。


 施設を出る日にはみんなで大泣きしたのは良い思い出だ。去年高校入学祝いとして、一人暮らしを勝手に向こうが画策していたっていうのに。


 …………。


 あいつら今どうしてるんだろう。


「そうだ、レン時間大丈夫? 今日は買い物についていくんでしょ」


 どこか母親のような言葉。本物の母親は知らないが。育ての親はこんな事をよく言ってくれていた。


 少し前にも言われてことだが、何故か懐かし思えて表情が緩む。


「耳が早いな、街にちゃんと行くのって久しぶりなんだよな、スリ……泥棒とか合わないよな」


「今時合わないと思うわよ」


「それは、よかった」


 俺はその空間から一足早く出ることになる。後ろ髪を引かれるが、遅れることはできない。





 自室に戻り買い物に出かける準備をする。服装は昨日出かけた時に着た執事服だ。やっぱり似合ってない気がする。待ち合わせは確か……玄関だった。時間の五分前に行こう。色時計の感覚にも慣れてきている。


 そして玄関に着くと、もうカレンさんは居るのだった。凄い。今朝はカレンさんとサキさんが先に朝食を取って朝の仕事をしている予定だったが、もう終わらせたということだ。


「すいません、待たせてしまいましたか?」


「いえ、待っていませんよ。行きましょう」


 待ち合わせの感じといい、やはり、デートのような雰囲気を嫌でも考えてしまう。浮かれないように気を引き締める。


 大きな玄関から、長い正門まで進む。こうしてやっと、街へと繰り出せるのだ。


「ところで、今日は何を買わなければいけないんですか?」


「今日は、食材の買い出しよ。最近使用人が増えちゃったから減りが早かったのよ」


 意地悪そうな顔。


 誰のせいかは言うまでもない。


「すいません……」


「そんなに、しょんぼりしなくてもいいのよ。責めてないから。逆に感謝してるのよ」


「いいですよ、そんなフォロー」


「ふぉろお? 助かっているのは本当よ。仕事はほとんど任せられないけど。あなたが来てから、お嬢様はよく笑うようになったの」


 仕事はほとんど任せられないって言葉がきちんと刺さりながらその言葉を受け止める。事実ですから。


「そうなんですか? 俺は俺がいなかった時のあいつを知らないので」


 よく笑う。笑うようになった。笑わないローズの事を全く想像できない。もちろん騙しているようにも思えない。


 だから、こんな俺を雇ってくれるのだろうか。


「全然笑わなかったわけじゃないけど、今とは結構違うわよ」


「そうなんですか……。あ! でも、あれですよね、あのおとぎ話の主人公と俺を重ねてるだけじゃないんですか? 黒髪ってのが同じだから」

 

 そして、あんなことをしようと思ってるところを救われたんだ。勇者や英雄にでも見えてしまってもしかたない。


「本当にそれだけなのかしら?」


「はい? 今なんか言いましたか?」


「ううん、何にも。まずはこのお店からよ」


 気が付けばここもう、活気あふれる街の中。俺の言葉通りのイメージとは違う商店街に到着していたみたい。


 そしてこれから街の至る所のお店を歩き回ることになる。

読んでいただきありがとうございました。

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