第18話 早起きは三文の徳
ここまで来ていただきありがとうございます。
意識の覚醒。鳥の音、太陽の光。朝の気配がもうそこにいた。
光に慣れていない目を無理矢理に動かして色時計を見る。まだ結構早い時間だ。大体、四時か五時といったあたりだろうか? 昨日は疲れて早く寝てしまったせいだろうか、こんな時間に目覚めてしまったみたいだ。
こんな時間とはいったが、この屋敷の人は朝が早い。起きている人はいるだろう。もしかすると、全員起きていたっておかしくない。
正直朝食まで眠り続けたいのは山々だが、俺もこれから正式にこの屋敷に置いてもらうことになる身。多少は何か出来るところを見せておきたいところだ。それに、こうして屋敷に来て三日目。お世話になりっぱなしなのだ。申し訳ない。お金も払っていないのに、すごく申し訳ない。
そして、俺も手伝いたいのだが、この俺の一人暮らしの高校生の中ではそこそこ出来る方程度の家事能力では本職の皆さんには叶わない。知らないことも多すぎて、手伝おうとしたら逆に作業を増やしてしまう。何か何か役に立ちたい……。
ひとまずその気持を胸に、朝食まで読書でもしようと図書室へ向かう。読み終えた本も何冊か返せるしちょうどいい。この国の本は結構読みやすく空いた時間によく読んでいた。
本を小脇に抱えて廊下を進む。直ぐに俺を待ちわびるように扉が現れて、開かれた?
「――おや、いつもと違って早起きですね。おはようございます」
図書室の扉を開けて出てきたのは若草色のショートカットのメイドさん。
カナちゃんだ。小さいのに朝から元気そうで何よりだ。
「ああ、おはよう朝食になったらちゃんと行くからそれまで本読んでるから」
「分かりました。気を付けてください」
俺と目を合わせる事なく彼女は静かにすれ違っていく。どこか、いつものカナにしては元気が無いように思える。
一体何に気を付けるんだろうか。良く分からないが向かおう。
「失礼しまーす」
程よい大きさで確認して部屋に入る。流石にこの時間でここにいる人はもういないだろうと思っていたが、明かりがついていた。誰かがいるのだろう。他のメイドだろうか。
そう思いながら本を数冊返し、適当に本を見て回る。今日は魔術と剣の本が読みたいのだが……と、探しているとここの先客を先に見つけた。
「おはようございます。今日はこんな朝早くからどうしたんですか?」
地上に現れるはずのない一輪の青い薔薇。その青さは空が嫉妬してもおかしくないほど綺麗な色をしている。朝焼けの淡い光は爽やかに彼女を照らしていた。
「えっと、確かアネモネさんですよね」
やはり何時みても美しい……じゃなくて、ローズに言われた対処法を思い出す。
目を見ずにして、と。
――やっていて思うのだが、これ外から見たらすごく感じ悪い人に見えそうだ。
「――今日は早く目が覚めてしまって、それで本でも読もうと思いまして」
「そうですか、本は良いですよね。私も好きなんです」
彼女は庭がよく見える窓の席に腰をおろしている。その机には小さな小箱と二冊の本が積まれ、手には開いている本がもう一冊。
いい人だ。本をよく読む人で悪い人はいない。透き通るような声音は朝にぴったりだ。ああ、もっと話してたい。朝食までは時間があるしもう少しこうしててもいいかもしれない。
「あ、そうでした、昨日渡しそびれていたものがあるんです」
そう言って、机の上に置かれていた箱から取り出したのは、一昨日ローズに渡した俺のペンダントだった。
「あいつ、昨日俺に渡すって言ってたのに……。忘れてたのか。ありがとうございます」
俺も忘れていたからそこまで怒れないが、人として失礼なことではある。次に会えば一言ぐらいは言っておこう。
「すいません、昨日は帰ってから渡すつもりだったんですけど……。その、つい忘れてしまっていたんです」
しかも、アネモネさんに渡させるなんて……。昨日渡すのを忘れていたから今朝直ぐに返そうと思ったが、朝は忙しいから多少暇な彼女に渡してもらうことにした、としても、褒められたものではない。やはり、自分で渡すべきだ。
でも、アネモネさんに会えたしいいか。
「なんか、すいません」
「いえいえ、そうだ! 付けてあげますよ」
彼女はそう言ってすっと椅子から立ち上がると、止める間もなく俺の後ろに回る。こうなっては断ることもできないのでそのまま身を任せる。
―――ペンダントがついた瞬間意識が鮮明になる。危ない、魅了されていたっぽい。ペンダントの力を再確認できた。
「やっぱり、似合ってないですね」
アネモネさんは魅了のことなど気にしていないかのように、そんなことを言ってくる。無邪気な微笑。彼女に悪意はないのだろう。責めることはできない。
「俺もそう思います。いつかこれが似合う女性にプレゼントしますよ」
自分でもこういうキラキラしたアクセサリーは似合わないと思っていた。一応大切なものとして肌に離さず持っていたが、特につけておく必要も無い気がする。それなら、俺の大切な人に渡したほうが、このペンダントも喜ぶだろう。
今後俺にそういう人ができればの話だが……。
「いいですねそれ。そうそう、これの鑑定結果が出ましたよ。精神異常を軽減する効果と魔力の自動補充があります。つけているだけで自分の魔力で補充してくれるので便利ですね。まだ他に能力があるかもしれませんが、昨日私が調べて分かったのはそれだけでした。もっと詳しく調べたいなら王国有数の鑑定士のところにもっていけば分かりますが一週間ほどかかります。どうします?」
「へー、アネモネさん、そんなこともできたんですね。凄い! ああ、でも鑑定は大丈夫です。十分分かりましたから」
まさかあっちのペンダントをこっちに持ってくれば特殊な効果を得られたなんて。もう少しこういうものを身につけていたら、もっと色んな能力を秘めたアクセサリー作れたと思うと残念な気持ちだ。
……これだけが、何故か特別だという訳では無い、よな。
「いえ、私の鑑定はそれほどでは……。その、宝石やアクセサリーを見るのが好きなんです。だから鑑定できるようになったら便利かなと思いまして」
自分の好きな事を最大限楽しむために、専門知識を学ぶ。それが出来る人はそう多くない。
彼女をただの貴族とは思えない。知識を学ぶ余裕は貴族だからできたのかもしれない。それでも、貴族に対する俺のイメージは書き換わった。粗暴で横暴で、大きな声のお姫様とは大違いだ。
「……やっぱり凄いですね。俺もその姿勢見習わせていた来ます。じゃあ、そろそろ」
本心からもう少し話をしていたかったが、これ以上彼女の読書を邪魔できない。
「ええ、すいません、長々と引き留めてしまいましたね。では」
目当ての本を見つけて部屋に持って帰る。朝食まではまでまだ時間があるし少し読み始めよう。そしていつの間にか寝落ちしていた俺を蹴っ飛ばした小さなメイドがいるとかいないとか。
読んでいただきありがとうございました。




